劇団パンタカ第3回公演:昭和59年4月8日(金):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『アヌルッダとアーナンダ物語』
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(8)

幕間
ーーー一人の比丘出てくる。実は以前、糞尿屋だった男、ナレーターが見て
ナレーター 「おやおや、今頃出てきて。あなたいったい、どうしたのですか?今は幕間ですよ」
「ええ、ええ、そうなんですよ。いつ出番が来るかと待っていたんです。ところが、いっこうに出られそうにない。そこでたまりかねて出てきたんですよ」
ナレーター 「おやおや」
「ネエ〜、皆さん。私のこと覚えておいでですか。第2幕の最初に出てきた男ですよ。糞尿屋の仕事をしていたのですが、今ではごらんの通りの姿です。どうしてだか、おわかりになりますか。まるで夢のようなお話ですが、まあ、聞いて下さい。皆さんにお話いたしましょう。あのあと、やっぱりどうしたわけか、私の行く先、行く先にお釈迦様が立っておられるのです。私は思い肥壷を背負ったまま、必死になって路地から路地へ走り回りました。ヘトヘトになってしまって、もう一歩も歩けません。とうとう道に坐り込んでしまいました。
すると、いつの間に来られたのか、お釈迦様が前に立っておられるのです。まるでお身体が輝いているようでした。私は思わず、ひれ伏して、
『アァ〜、尊いお方、聖者さま、むさ苦しいものでございます。お眼にとまった失礼をお許しください。どうか、お許しください』すると世尊は、おっしゃいました。
『男よ、顔を上げて私を見なさい。おまえと同じように母親の胎内から、生まれてきたものである。なんら変りはないのだ。ただ、聖なる自覚に達したゆえに如来と呼ばれているのだ』
私は、ただもうボォ〜として、お姿に見とれていました。お釈迦様は、じっと私の眼をごらんになって、一言おっしゃいました。アァ〜、私には一生忘れることのできない言葉を、おっしゃいました。
『弟子よ、来たれ』と、そうです『弟子よ、来たれ』とおっしゃったのです。この私にですよ。長い間、世間からさげすまれていた私にです。なんという驚き、なんという喜びだったでしょう。私は、お弟子にして頂いて年月のたった今でも、その時のことを思い出すと、喜びにつつまれて涙が溢れてくるのです。皆さん、私は、お釈迦様のお弟子です!・・・・・
アァ〜、これで気が済んだ。どうも私の話を聞いて下さって、ありがとうございました。
第3幕が、始まるようですから、この辺で失礼します。どうもおじゃまさま」
第4幕第1場 ーーー涅槃の場、クシナガラ沙羅林中。
(NA) ーーー時は流れ、お釈迦様は八十才の高齢になって居られた。
その年、竹芳村において最後の雨期を過ごされ、アーナンダを伴い、ベーサ−リ城に托鉢され、チャーパーラ廟に立ち寄られました。
ーーー釈尊アーナンダに手をとられて、杖をついて出てくる。
釈尊 「アーナンダよ、背が痛む。しばらく休みたい」
ーーーアーナンダ、座をしつらえる。
(NA) ーーーその時、魔王が様子を窺っておりました。
ーーー魔王、這うように近づき、ささやいて、
魔王 「ゴータマよ、ゴータマよ、あなたの、この世での仕事は終わった。今や一刻も早く、世を去られるがよい。ヒッヒッヒッ」
釈尊 「魔王よ去れ。余は自らその時を知る。今より三月を経てクシナガラ城のサーラ双樹の間において滅度に入るであろう」
ーーーアーナンダにはこれらは聴こえないので、知らん顔で、荷物を片付けたりしている。
魔王 「そうか、仏陀の言葉には偽りがない。たしかに三月の後に入滅するに相違ない。我々はこの時の来るのを待っていたのだ。嬉しいな、嬉しいな・・・・・・」
ーーー魔王たち、跳び回る。アーナンダは座を設け、釈尊をそこへ横たえる。弟子たち集まってくる。
釈尊 「汝らよ、万人の幸福のために、この道を自ら修め、他に伝えよ。謙虚な心を以って道の真実を見よ。真理は、余の肉体以上であって常に真理を見る者は、仏陀と共にあるのだ。汝らよ相和し相敬して争ってはならぬ。水と乳の如く和合せよ。
余は、三月の後、滅度に入るであろう」
ーーーアーナンダ、泣きながら、
アーナンダ 「世尊よ、どうしてそんな哀しいことを仰せられるのです。もっともっと、私共を教え導いて下さい・・・・
あと三月で亡くなるなどと、そんなことは、私たちには、耐えられません。どうして!そんなことが!」
ーーー泣きくずれる。
弟子たち 「世尊よ、世尊よ」
弟子A 「世尊よ、この世に在して、灯明となり給え。そうでなければ人々は永遠に迷うでありましょう」
釈尊 「汝等よ、悲しんではならぬ。現象界に不変はない。汝等は、清浄なる生活をなし、放逸に流れるな。余の生涯は、まさに終わらんとする。法が今後の汝等の師である。余に仕えるが如くせよ」
暗転

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