劇団パンタカ第3回公演:昭和59年4月8日(金):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『アヌルッダとアーナンダ物語』
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(6)

暗転
ーーー緞帳前・漫才、A,B登場
「だいたいこのデーヴァダッタってのは厳格派だったんだよね」
「そうそう、戒律をもっと厳しくしろということを釈尊に提案してしりぞけられている」
「それにしても彼女のアーナンダへの思いは普通じゃあないね。恋は盲目というが」
「思案の他ともいうね。ハハハハッ、そういう君も最近恋をしているそうじゃないか」
「ウン、実をいうとそうなんだ」
「休みの度に王子動物園へ通っているって噂だよ」
「あれ〜、誰に聞いたの」
「彼女、動物園につとめてるの」
「いいや」
「じゃあ、売店かどこかで働いてんの?」
「そうじゃあないんだ」
「じゃ、いったいどこに?じれったいね。教えてくれたっていいじゃあないか。名前はなんていうの?」
「ベニコっていうんだ。僕がベニコって呼ぶと彼女、嬉しそうに首を伸ばしてね」
「ええ〜っ」
「とても踊りが上手でね。とびっきりスマートな足を優雅に動かして近寄ってくるんだ」
「ほぉ〜、美人らしいね」
「美人だとも。彼女ったら、ボォ〜ッと赤くなって、恥ずかしそうにうつむいて、水にのの字を書いたりするんだよ」
「いいねえ、ええ−っ、水にだって」
「一本足で立って、つぶらな瞳で、流し目をされると僕はもう・・・たまんないよ」
「ずいぶん変わってるね」
「別に変わってないよ。みんな彼女の友達連中も、そんな風だけどね。まあ、しかし毛並みといい、羽の色といい、嘴の曲がり具合といい、彼女がNo.1だね」
B 「えぇ〜、羽に、嘴!、いったい彼女ってえのは誰なんだい」
「フラミンゴなんだけれどね」
「えぇ〜、こいつ!いいかげんにしろ。人をからかって。こら〜っ!」
「ごめん、ごめん。でも本当にかわいいんだから」
「もぉ〜、ほんとうに」
「まあ、いいじゃないか。今日は花まつりなんだからさあ」
「おやおや、まあ、そりゃそうだね」
「ところで、いまのスメーダの恋物語はどうなるのかね」
「なにせ、2500年前の物語だからね」
「昔から身分が違うとかで苦しんだ恋人達は沢山いるよ。その上相手が坊さんとくれば、どうなることやら」
「インド版、八百屋お七か、娘道成寺って具合になるのかな」
「いやいや、お釈迦様がおられるのだから、ちゃんと導かれるだろうと思うよ」
「それにしても、人の貴いか賤しいかを身分制度で固定化していたあの時代に、お釈迦様がはっきりと貴いか賤しいかはただその人その人の人格の如何によるのだと言い切られたことは、勇気ある発言だったと思うねえ」
「そうだよ、今日でも、そういう差別の問題はなくなっていない。我々はあらためて、お釈迦様の教えを誇りをもって、伝えなくちゃあね」
「ほお〜、いいことをいうね。フラミンゴに恋している人とは思えないね」
「ひやかすなよ」
「じゃあ、ベニコさんによろしく」
「もういいよ」
A&B 「失礼しました。じゃあ、皆さん続きをゆっくりご覧ください」

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