劇団パンタカ第3回公演:昭和59年4月8日(金):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『アヌルッダとアーナンダ物語』
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(4)

ーーースメーダ、急いで傍らの家にかけ寄り、大声で呼ぶ。
スメーダ 「お母様、お母様」
「なんだね、この子は、変な声色なんか使っちゃって、気持ちが悪いじゃあないか」
スメーダ 「ねえ〜、ねえ〜、お母さん。私、お嫁に行くんだったら、お釈迦様のお弟子のアーナンダ様がいい。あの人のお側にいたいの。なんとかしてちょうだい」
「馬鹿なことをお言いでないよ。お前、気はたしかかい」
スメーダ 「アーナンダ様はおっしゃったの。人はみな、生まれながらに平等だって、だから、誇りをもって生きなさいって。私、アーナンダ様の為だったら、どこへだって行くし、なんだってやるわ」
「あの方々は皆、出家した方々だよ。そこへお嫁に行きたいだって、お前、陽気のせいで、気がふれちまったのかい。しっかりおし」
スメーダ 「あぁ〜、アーナンダ様にもう一度逢いたい。あのお姿が見たい。あのお声が聞きたい」
ーーースメーダ、虚ろなありさま。
「まぁー、こともあろうに、マータンガの娘が、坊さんに惚れちまうなんて、まったくあきれたことだねえ。私の魔法でだって及ばないことだよ。やれやれ」
ーーースメーダ、顔を輝かせて。
 スメーダ  「魔法!、そうだわ、魔法よ、ハハハッ・・・魔法があるわ。ねぇ〜、ねぇ〜、母さん、母さんの魔法で、アーナンダ様が家に来てくださるようにしてちょうだいな。ねぇ〜、お願いだから〜」
「とんでもない、なんてことをお言いだい。アーナンダ様を呼び寄せろだなんて、それは出来ない相談だよ」
スメーダ 「どうしてなの?」
「それは、なるほど私の魔法は、たいていの物には効果があるが、どうしても効果のないものが二つあるのだよ。死んだ人と、欲を離れた人だ。ところがアーナンダ様は、お釈迦様の立派なお弟子だから、充分、離欲の足っている人で、そんな人は私の魔法に到底かかりっこはないと思う。万一、かかったりしたら、この国の大王パセーナディー様は、お釈迦様を大変尊敬しておられるから、仏弟子を魔法で、マータンガの家に引き寄せたことが知れた場合には、どんなに私たち一族を処罰なさるかも知れない。だから私には、魔法を使うことができないというのだよ」
ーーースメーダ、母親の言葉を聞いて、泣き崩れる。その様子に母親はさすがにおろおろする。
スメーダ 「あぁ〜、こんなに胸が苦しいんだったら、いっそ死んだほうがましだわ。井戸に身を投げようかしら。そうすれば、どんなに楽かしら」
ーーー母、ドキッとして、
「エェ〜イ、エェ〜イ、仕方のない子だねぇ〜。まったく。最後は親を脅迫するのかい。甘やかして、育てた私がいけなかったんだ。騒ぎになったって知らないよ、わたしゃぁ」
暗転

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