劇団パンタカ第3回公演:昭和59年4月8日(金):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『アヌルッダとアーナンダ物語』
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(5)

第2幕第2場
ーーー母親、すごい形相で呪文を唱え、花片を一枚づつ投げ入れる。
「あまり・美マリ・九組・散漫・因幡寿司・音羽ズシ・ウマイ・ビンズミシャーヤ・・・・・天よ!魔よ!ケンダツバよ!火の神よ!わがこの呪術を容れて、アーナンダをここへ来たらせたまえ(くりかえし)。えぇ〜い!」
ーーーすると、どうしたわけか、アーナンダが、夢遊病者のように、フラフラとやってくる。スメーダは、躍り上がって喜びアーナンダの手をとってクルリ、クルリと廻り、見とれるようにして手をひいて、部屋に導き入れ椅子に坐らせる。少し離れて、胸に手を当て、夢ではないかと息を弾ませている。近寄ってアーナンダの手をとり頬に当てるが離すと彼の手はダラリと垂れる。糸の切れた人形のようである。抱きしめようとして、彼の虚ろな眼に気が付く。眼の前で手を振って見せるが、反応がない。
スメーダ 「あぁ〜、いとしいアーナンダ様。ちゃんと私を見てくれなきゃいや」
ーーー両手に挟んで、自分の方に顔を向けるがすぐに、アーナンダはぼんやりと火の方を見てしまう。いらだったスメーダは膝をつくとアーナンダの唇にくちずけしようとする。と!同時に釈尊が現れ手を挙げられると、閃光が光り、嵐が起こり、あたりは暗くなり、護摩の火は消えてしまう。スメーダ、驚いて跳びすさり、母は腰を抜かしている。アーナンダ、きょとんとして立ち上がり、また、ぼんやりと坐る。それから釈尊に気付き、駆け寄る。
アーナンダ 「アッ、世尊!」
ーーー釈尊は、アーナンダを衣の袖に包むようにして、急いで退場する。
スメーダ 「あぁ〜、アーナンダ様が行ってしまわれた」
ーーースメーダ、泣き崩れる。
暗転
第2幕第3場
(NA) スメーダは、哀しみと悩みの中に一夜を泣き明かしました。そして翌朝になると、彼女は新しい衣裳を付け、美しく化粧して比丘たちの托鉢を待ち受けました。まるで花を慕う蝶のように、アーナンダに付き随って離れませんでした。
 ・ ーーー托鉢の僧達入場。アーナンダが入ってくる。物陰にいるスメーダは一人一人の比丘をしげしげと見送っているが、アーナンダを認め、喜色を全身に現わして寄っていく。アーナンダの袖を取らんばっかりに寄り添い、顔を覗き込み笑いかける。アーナンダ驚いて、さしうつむき五,六歩離れようとすると、彼女もまた付き従い、同じようにしなをつくる。しばらくコミカルにやりとりがある。デーヴァダッタがそれを見て、冷やかす。
デーヴァダッタ 「アーナンダ、どうしたのだ。そのありさまは」
アーナンダ 「おぉ〜、デーヴァダッタ、なんとかしてくれ。本当にどうしてこんなことになるのか。おぉ〜、はずかしや、はずかしや」
スメーダ 「アーナンダ様、アーナンダ様・・・・・・」
デーヴァダッタ 「エェ〜イ、何がアーナンダ様だ。日頃の気の引き締めが足りぬから、そのような体たらくになるのだ。娘よ去れ。エェ〜イ、去らぬか。修行の邪魔だ!」
ーーースメーダを、衣の袖で振り払うように、アーナンダの傍から追い払う。スメーダあわてて、飛び退り、哀しげにアーナンダを見やる。アーナンダ、顔をそむける」
デーヴァダッタ 「大体、日頃、世尊の言われることは生ぬるい。もっともっと規律を厳しいものにせねばならぬと、いつも申し上げているのに、取り上げて下さらない。だから、お前のような軟弱者が、お傍近くにおれるのだ。こんなありさまで、ご修行と言われようか。エェ〜イ、さっさと精舎へ帰れ。まったく、なんという恥さらしだ」
ーーーアーナンダ、悄然と帰る。後を追おうとするスメーダの前にデーヴァダッタが立ちふさがる。
デーヴァダッタ 「エェ〜イ、けがらわしい女め、修行の妨げをする悪魔の手先か。早く消え失せるが良い。さもなければ、我が法力をもって・・・・・・・」
ーーースメーダ、哀しそうな顔で、振り返り、振り返り、アーナンダの歩み去った方を見ながら、上手に消える

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