劇団パンタカ第3回公演:昭和59年4月8日(金):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『アヌルッダとアーナンダ物語』
(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10)     TOPへ        HOME

(10)

(NA) 釈尊の一子、ラーフラは、父の死を見るに忍びず、林を出でて独り東北の方へ歩いて行ったが。
ラーフラ 「夜が明ければ、おそらく再び父を見ることが、できないであろう」
ーーー思い返して林に帰り、ためらっているところを、アーナンダが気付き、近くに呼んで仏陀の側に坐らせた。
釈尊 「ラーフラよ、嘆いてはならぬ。余の法は常に存在する」
ーーー釈尊、弱弱しく手を伸ばされる。ラーフラ、その手を握り、押し頂いて。
ラーフラ 「世尊よ!」
ーーーラーフラ、むせび泣いた後、席を立って大衆の中に戻る。
釈尊 「弟子らよ、疑問があれば、今の内に質しておけ。友が友に問う如く、遠慮なく聞くが良い」
ーーー大衆、黙然たり。
アーナンダ 「世尊よ、疑問を持つものはいないと思います」
釈尊 「アーナンダよ、この五百の弟子等は、四諦の理を解し、聖なる位に達している。汝らは努め励め。放縦であってはならぬ。これが余の最後の教えである」
(NA) ーーーこのように語り終えられた釈尊は静かに深い禅定に入られた。
ーーーアーナンダ、オロオロして。
アーナンダ 「アヌルッダさん、世尊は滅度されたのでしょうか」
ーーーアヌルッダ、泰然として。
アヌルッダ 「いえ、まだです。深い禅定に入っておられるのです」
ーーーしばらく沈黙が続くが、アーナンダ、たまりかねて。
アーナンダ 「アヌルッダさん、ご様子では世尊は滅度されたのでは・・・・・・どうなんですか?」
アヌルッダ 「アーナンダ、落ち着くが良い。世尊は更に深い禅定に入ってゆかれる」
アーナンダ 「アァ〜、私にはもう耐えられません。お水でも汲んで参ります。世尊のお口を濡らして差し上げたいのです」
ーーーアーナンダ、急いで水を汲みに行く。花道まで汲みに行き、急いで帰って来るが、途中で・・・・・。
アヌルッダ 「ただいま世尊は滅度され、完全なる涅槃に入られました」
ーーーアーナンダ、それを聞いて、鉢を手より落とし膝をつき、身を地に投げて号泣する。若い弟子達も身をよじり、手をあげて嘆き悲しむ。
アヌルッダ 「みなそのように憂い悲しんではならぬ。世尊は常に、一切は無常である、と説かれたではないか」
アーナンダ、弟子達 「はいっ」
ーーーアヌルッダ、立って正面に出て。
アヌルッダ 「正覚の王、我等に法の乳を与えて、法身を長ぜしめたまえり。今や永く滅度に入りたもう。苦悩の衆生いずれにか帰せん。我等暗闇にあり、悪魔はために歓喜せり。願わくば大悲舎利の光、我等を救いたまえ。宝法常に流れて窮まること、なからしめたまえ」
ーーーアーナンダも立ち上がり、並んで、泣きながら、
アーナンダ 「我、二十余年、その側に侍しぬ。いまや世尊、我等を捨て入滅したもう。悲しいかな、無明の長夜心をいたましむ。我未だ、迷いの網を逃れず、無明の殻を離れず、などて我を捨て、かく疾く去りたもうや。我今、世尊に懺悔したてまつる。
二十余年の間、怠り多く、御心にかなうこと能わざりき。願わくば、大悲我に甘露を注ぎ、我を安んぜしめたまえ。我胸迫る。何ぞ聖恩をのぶるを得ん」
(NA) ーーー時に、二月十五日の夜半でありました。大地は震い、天鼓は鳴り天華は雨と降りました。その時、天下の神々は讃えました。
『仏陀は慈母なり、普く大悲の乳を与えて、衆生を育みたまえり、今や忽ち、その身を捨てたまい、人間天上共に依る所を失えり。世はすべて無常なり。生滅変化して止まらず、生じては滅す。
その生滅をこえたる寂静こそ永遠の楽しみなれ』と・・・・・・
それでは皆さん、合掌をお願いします。
南無本師釈迦牟尼仏と、三回大きな声でおとなえ下さい。
南無本師釈迦牟尼仏
南無本師釈迦牟尼仏
南無本師釈迦牟尼仏
緞帳降りる

                                        TOPへ        HOME