劇団パンタカ第7回公演:昭和63年5月6日(金):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『ボクのおじいちゃん』
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(6)

第五場 ーーー音楽スタート、照明、青白くほの暗く、仏壇の中の灯り、照度上げる。仏壇の上に蓮の花、そこにおばあちゃん登場。おばあちゃんと寝ているおじいちゃんの両方にピンスポ
おばあちゃん おじいさん、おじいさん!
おじいちゃん ああ〜・・・
おばあちゃん わたしですよ
おじいちゃん あれ〜、おばあちゃんかい、ほんとに?こりゃ驚いた
おばあちゃん こんな姿をしてますが、わたしですよ
おじいちゃん たしかにそうだ。それにしても、今頃どうして、おまえ、あちらへ行ったんじゃないのかいーーー布団の上に起きあがる
おばあちゃん そうですねえ。あのあと、こちらでも色々と行事がありましてねえ。やっとお暇がいただけたんですよ
おじいちゃん ほお〜、そうかね。おまえはそちらで心機一転、けっこう楽しくやっているようだが、わたしはがたがたに調子外れの身体で、全く、自分が自分でないようだよ、見てごらんよ
おばあちゃん おむつを当ててもらっているんですね。お釈迦様だって、ご自身、年老いたことを、古くなった車輪に皮を張って、ようやく持ちこたえているようなものだったっておっしゃってますよ
おじいちゃん えっ、おっしゃってますよって・・・・いらっしゃるのかい
おばあちゃん えーえー、いらっしゃるのよ。お釈迦様が・・・・
おじいちゃん ええっ、するとやっぱり極楽浄土ってのはあるのかい
おばあちゃん ありますとも。はじめは新入りでしたから、西も東もわからなかったんです。でも、この頃になって、こちらの水に慣れてきたのか、お釈迦様の蓮華のおみ足が良く見えるんですよ。それはとってもいいお声で歌を教えて下さるんです。
    「 いのちの海に  みな住みて
      波のまにまに  浮き沈み
      潮の満ち干の  往きつ還(かえ)りつ 」
どうです、すてきでしょう
おじいちゃん ふん、おまえはだいたい惚れっぽくて、すぐのぼせるたちだから、いまやお釈迦様にお熱というわけだ
おばあちゃん そんなんじゃありませんよ。みんなみ仏の導きで光の海を渡っていくんですよ。そうして智慧の水を飲ませて頂くんです。水だけが永遠の実在。生き物は泡。水の泡は出来たかと思うと、すぐ消える。泡は水に還る・・・・水から生まれて同じ水に還る。み仏は水、わたしたちは泡・・・・・
おじいちゃん それがどうしたっていうんだい・・・・
おばあちゃん お願いですから素直に聴いてくださいな
おじいちゃん うん、わかった、わかった。おまえの顔を見てると、つい逆らいたくなるんだよ
おばあちゃん わたしたちはね。生きること、老いること、病むこと、死ぬことを、何度でも体験するんですよ。苦しみと楽しみの経験を味わい尽くすんです。どうですか、ご自分の一生を振り返って見て
おじいちゃん そうだなあ、色々あったけど振り返って見れば、まるで長い夢を見ていてすべてが夢の中の出来事のように思えるよ
おばあちゃん そうでしょうね、でも、みほとけはすべてに現れていらっしゃるんですよ。そのことがわかれば自由になれる。幸せになれる。でもわたしたちはそのことに気付かないで憎んだり嘆いたりしているんです。まるで蚕のように。その気になりさえすれば外に出られるのに、大変な苦労をして、一生懸命働いて作った繭なものだから、後生大事に惜しんで惜しんで、破って出ることが出来ない。そうしてその中で死んでいくのです
おじいちゃん おまえ、ずいぶん難しいことを言うねえ
おばあちゃん おほほほほ・・・・・受け売りですよ。お釈迦様からのね
おじいちゃん そんなことを言ったって、みんなそうやって、それぞれの人生を送るんじゃないか
おばあちゃん だから、みんなやりなおすんです。いつか聖霊のお仲間に入れてもらえるようになるまで。それが成仏ということですわ。あなただって、やりなおせるものなら、始めからやり直したいでしょ
おじいちゃん う〜ん、そうだなあ。なんだか、あっという間に終わってしまう感じだなあ。世間並みに、人並みにと、あくせくしているうちに、なにか大切なこと、一番肝心なことを忘れていたみたいだなあ。なんだったのかなあ?
おばあちゃん ご両親から分けてもらったあなたの身体がとうとうこわれるときが来たのよ。さあ、行きましょう
おじいちゃん えらくまた急だねえ
おばあちゃん みなさん、そうおっしゃるわ
おじいちゃん なんだ、おまえ、なにかそういう係りでもしているのかい
おばあちゃん ええ、保険の外交をやってたでしょ。だから、説得力があるんですって。普通は意識界には二度と下りて来られないんですけどね。特別なんです!
おじいちゃん あいかわらずやり手だねえ・・・・・・ところで彼に会うこともあるのかい・・・・・・
おばあちゃん 彼って?・・・・ああ〜・・・・水島さん・・・いらっしゃいますよ
おじいちゃん 早く会いたいような、会うのが辛いような、変な気持ちだなあ
おばあちゃん あの人、いつもにこにこ笑っていますよ。とってもいい笑顔で
おじいちゃん 彼は何をやってるんだい。今でも軍服を着ているのかい
おばあちゃん まさか!こちらでは服なんてないんです
おじいちゃん ええっ、すっぽんぽんかい。そりゃあいい、あ、いや、なんという恐ろしい
おばあちゃん なにをごちゃごちゃ言ってらっしゃるんですか
おじいちゃん 彼は、はたちで戦死したときのまんまの美青年。こちらはよぼよぼのガタガタ。お前、タンスの奥に彼の写真を大事にしまっていただろう。結婚するとき、彼の写真は全部焼いて諦めるって言ってたのに、ころっとだましてたんだねえ。お前が往った後、整理してたら出てきたんだよ
おばあちゃん ええ、ええ、見てましたよ。あなたったら、こわい顔をして。ほほほほほ・・・・まだ妬いてらっしゃるんですか
ーーーおじいちゃん、のそのそと布団の中にもぐろうとする
おじいちゃん いいですよ、いいですよ、人を馬鹿にして・・・・ふんだ
おばあちゃん まあ、まあ、機嫌を直して下さい。さあ、せっかくこうやってあなたのために迎えに来たんじゃありませんか
おじいちゃん じゃあ、せっかく来たんだから、こっちに来ておくれよ
おばあちゃん (少し毅然とした声で)ほほほほ・・・そんな思いもすぐに消えてしまいますわ
   「 私は いつの日 すくわれる
    それ その 私が 消えたとき 」
みんな光の海に溶けて往くんです。あいかわらず世話の焼ける人だこと。さあ、いらっしゃいな
おじいちゃん やれやれ、あんたが一人で迎えに来るとは思わなかったなあ。仏様が団体で雲に乗って迎えに来てくれる絵があるだろう。きっとあんな風だと思っていたんだがなあ
おばあちゃん あら、あんなのがお好きですか。当節は流行らないんですけどねえ。でも、お望みならお見せしましょう。あなたの意識が見る最後の幻ですよ
ーーー音楽、引き割り幕が裂け、強烈な光が洩れる。半分まで開く。五色の雲、天人、光ーーーおじいちゃんにサススポット
おじいちゃん ああ〜、みよ子さ〜ん
ーーーコーラス、「 七つの子 」のハミングーーーおじいちゃんの独白、(内容はおじいちゃん役の人が自分で考えておじいちゃんが自分の一生を振り返っての思いをしみじみと語る)
ーーースポットしぼる、ややあってコーラス終わる
緞帳降りる
それでは、合掌をお願いいたします。
この尊いみ教えをお説き下さったお釈迦様のみ名をお唱えいたします。
南無本訴釈迦牟尼仏
南無本師釈迦牟尼仏
南無本師釈迦牟尼仏

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