劇団パンタカ第7回公演:昭和63年5月6日(金):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『ボクのおじいちゃん』
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第三場  ーーー舞台ほの明るくなる。正面に仏壇があり。あたりは朝の感じ、おじいちゃんと二郎、寝ている。二郎、起きあがり、伸びをして眼をこすり、あくびをして、それからお仏壇の戸を開けて、中のライトのスイッチを入れる。仏壇の内部、浮かび上がる
二郎 おはようございます
ーーー照明、すっかり朝の感じ。下手からお父さん、出勤の姿で、ネクタイを締めながら二郎の頭をゆさぶる。二郎いやがる。
お父さん おお、二郎。起きたか。今日もしっかり勉強せえよ。
ーーー二郎、おじいちゃんの枕元に立って
二郎 おじいちゃん、おじいちゃん、起きてる?死んだんと違う?
ーーーお父さん、ぎょっとして立ち止まる
おじいちゃん 起きてるよ〜、二郎ちゃん・・・・ごはんもう食べたか?
二郎 まだや
おじいちゃん 腹減ったなあ〜ーーーお父さん、ほっとして
お父さん 行って来ます
二郎 行ってらっしゃ〜い
ーーー下手からお母さんも「いってらっしゃ〜い
二郎 おじいちゃん、おじいちゃん、ええこと教えたろか
おじいちゃん ああ〜、腹減ったなああーーー涙声になる
二郎 もうちょっとがまんし〜、もうすぐご飯やから。あのなあ、おじいちゃん、ヒマラヤ、ヒマラヤ、ヒマラヤいうて十遍、言うてみて
おじいちゃん なんやて
二郎 ヒマラヤ、ヒマラヤ、ヒマラヤ言うてみてえな
おじいちゃん ヒマラヤ、ヒマラヤ、ヒラヤマ、ヒヤラマ、ヒヤラマ・・・・・ああ〜腹減った・・ああ〜
二郎 おじいちゃん、世界で一番高い山は?
おじいちゃん ヒヤラマや、いや、ヒマラヤや
二郎 残念でした。エベレストでした
おじいちゃん ああ〜・・・・・
二郎 ねえねえ、こんどはすもも、すももいうて十遍、言うてみて
お母さん 二郎、なにしてるの。早く顔を洗って着替えなさい。学校に遅れますよ
二郎 おじいちゃん、今度のぼくの誕生日に、新しいファミコンソフト買うてくれる
おじいちゃん はあ、なんやて?
二郎 誕生日にファミコンソフト。買うてくれる
おじいちゃん ああ〜、ハミコン?
ーーーお母さん、下手から登場
お母さん 二郎、早くしなさい・・・・なに、ぐずぐずしてるの・・・・
ーーー二郎、慌てて「はあ〜い」下手へ退場。
おじいちゃん みよ子さん、ご飯はまだですか
お母さん はいはい、今すぐできますからね。さあさあ、お風呂場へ行きましょうねーーーおじいちゃんを起こすと、抱えるようにして下手へ退場。一郎、登場。学生服を着ながら、むっつりした表情
一郎 臭いなあ、もう、この部屋は・・・・なんとかしてくれよーーー二郎、登場
二郎 お兄ちゃん、おっす。あのなあ、すももすももいうて、十遍言うてみて
一郎 あほか、この忙しいときに
二郎 あほとはなんや。あほはどっちかわからへんで。なあ、ためしにすもも、すもも言うてみてえな
一郎 なにい、ほんまにうるさいやっちゃなあ。ああ・・・・すもも、すもも、すもも、すもも・・・・・・・すもも・・・・
二郎 はい、金太郎はなにから生まれましたか・・・・・
一郎 桃からやないか
二郎 残念でした。お母さんからです
一郎 こいつっーーー二人、取っ組み合いになる
ーーーお母さん、走り込んでくる。慌てている
お母さん 一郎!一郎!ちょっと来て!おじいちゃんの様子が変なのよ。
ーーー一郎、二郎、急いで取っ組み合いをやめて、三人、下手へ。再び、ぐったりしたおじいちゃんを抱えて戻り、寝床に寝かせる。お母さん、下手へ入りマイクで電話。電話の呼び出し効果音
お母さんの声 『もしもし、小早川医院ですか?朝早くからすみません。いつもお世話になっております。二丁目の山口ですけれども、おじいちゃんの様子がおかしいんです。・・・ええ・・・ええ・・・はい、寝かしております。・・・・・はい・・・・ええ、よろしくお願いします
ーーーお母さん、下手から登場。見守っている一郎、二郎に
お母さん 二人ともありがとう。もう大丈夫よ、小早川先生が往診してくださるから、大丈夫。学校へ行ってちょうだい
二郎 おじいちゃん、大丈夫かなあ・・・・ーーーおじいちゃんの手を少し持ち上げて、離すとだらりとするので
二郎 おじいちゃん、死んだらあかん。ファミコンソフト買うていらんから死んだらあかん
お母さん なにを言うてますの。お母さんがちゃんとついてますから、あなたたちは学校へ行くの。さあ、もう、ぎりぎりでしょ。早く行きなさい。

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