劇団パンタカ第7回公演:昭和63年5月6日(金):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『ボクのおじいちゃん』
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(1)
第一場 緞帳前 | ーーー警官A、上手より登場。下手より警官B、急いで登場。 |
警官A | お〜い、君 |
警官B | はっ |
警官A | おいおい、どこで油売ってたんだ |
警官B | はっ、申し訳ありません |
警官A | 大方、また例のタバコ屋の娘のところでねばってたんだろう |
警官B | いえ、本官は決してそんな・・・・ |
警官A | いい、いい、お前はすぐに顔に出るからなあ。べっぴんほど強い男が好きなんだぞ。もっと強そうな顔をせんとふられるぞ |
警官B | はい、いいえ・・・・、はっ・・・・ |
警官A | ところで君、山口さんのおじいさん、見なかったか |
警官B | えっ |
警官A | 今、奥さんから届けがあってなあ。また、どっかへ行ってしまったらしいんだ |
警官B | またですか、いやになっちゃうなあ |
警官A | まあ、そういうな。署の方にも連絡しておいたが一応、この辺も巡回してみよう |
警官B | どうせ、また、この辺じゃなくて、とんでもないところへ行ってるんですよ |
警官A | う〜ん、難儀なこっちゃなあ |
・ | ーーーおじいちゃんのゲートボール仲間、三人登場 |
警官A | あっ、そうだ、皆さん、ちょっとすみません・・・ |
友人達 | 何ですか? |
警官A | 山口さんのおじいさんを見かけませんでしたか? |
・ | 友人達、顔を見合わせ |
友人A | いい〜え〜、見かけなかったですよーーー警官B、威張って |
警官B | よく公園でゲートボール、いっしょにしてたじゃないですか。今日はどうしたんです。隠すと為になりませんよ |
警官A | ばか、こんなときに強がってどうするんだ |
友人A | 何言うとるんですか、この人は・・・・・友人達早口にてんでに |
友人B | 山口さん最近はすっかりご無沙汰やわねえ |
友人C | それがね、山口さん、ぼけはじめはったらしいんですよ |
友人A | いやあ、わたしたちにはとても信じられんですなあ |
友人B | でも、奥さんが亡うなってから、急に老けてしもてやったわねえ |
友人C | ちょっと、あちらのお嫁さん、きついんとちがう |
友人A | いや、そんなことはない。よくしてあげてるって聞きますよ |
・ | ーーー警官、うんざりした顔で |
警官A | いや、どうも、どうも、それじゃあ・・・・・あ〜、君・・・・・二人、立ち去りかける |
友人A | 山口さん、どうかなさったんですか? |
警官B | 捜査上の秘密です |
警官A | ばか!何を言ってんだ |
・ | ーーー警官たち退場 |
友人A | けったいな具合やなあ |
友人C | あっ、きっとあれよ、あれ・・・ |
友人B | そうや、きっと徘徊が始まったんやわーーーー三人退場 |
同じく緞帳前 | ーーー下手よりお母さん、上手からおばさん、二人ともあわてている |
おばさん | みよ子さん! |
お母さん | ああ、お義姉さん、早く来てくださって良かった |
おばさん | 電話じゃ様子が良うわからなんだんやけど |
お母さん | おじいちゃんがまたどこかへ行ってしまったみたいなんです |
おばさん | どっかへ行ったってあんた、なにも、そんなに・・・・ |
お母さん | すみません、ちょっと二階の物干しに出て、洗濯物を取り込んでいるうちに、姿が見えなくなって・・・・・ |
おばさん | 本当にこんなことがちょくちょくあんの?あのしっかりしたお父さんが徘徊やなんて・・・・・なんか、ちょっと買い物にでも・・・・ |
お母さん | ええ、最初はわたしもそう思ったんです。おじいちゃん、きちんと着替えるんですよ。ネクタイも自分で選んで締めて、行って来ますって言って。ですからわたし、おじいちゃん、どちらへ行くんですかって訊くと、戦友と会う約束があるっておっしゃるんです・・・・・・今から思うとちょっと変だなって感じたんですけど・・・・・てっきり・・・・ |
おばさん | で、どうなん |
お母さん | 夜になっても帰って来ないんです。みんなで心配していると, 最初の時は明石の警察署からこういう人を保護してますが、帰るところが解らないって言ってますっていうでしょう。もうびっくりして |
おばさん | でも、お正月に来たときはとても元気そうでしっかりしてたし、わたしなんかお前はいくつになってもだらしがないなんてお説教されたぐらいやのに |
お母さん | そうなんです。身だしなみはきちっとして姿勢もいいでしょう。それにものの言い方もしっかりしてらっしゃる。だからお巡りさんに交番へ連れていかれても、けっこう理屈で逆らったりして、迎えに行くとかえって怒ってるんですよ。何もしてないのに、何でここに連れてこられなきゃならないんだなんて |
おばさん | そんなにしっかりしてて、どうして家に帰られへんのよ |
お母さん | それが肝心の方角や住所なんかがすっぽりと抜け落ちてしまって、訊かれても答えられないし、自分でもどこへ行くんだったか、どこから来たのか、判らないんですって |
おばさん | そんな、あほな |
お母さん | お父さんは出張で土曜まで帰ってこないし、一郎は塾へ行ってて遅くなるし・・・・いちおう警察の方には連絡したんですけど |
おばさん | じゃあ、二郎ちゃんが一人、留守番してるの? |
お母さん | ええ、あの子、あれでしっかりしてますから、電話の番をしてなさいって・・・・お義姉さん、お願いですから、一緒に来てください。私一人じゃ心細くて・・・・ |
おばさん | いっしょにって・・・・・どこか心当たりであんの・・・・ |
お母さん | ええ、今日は花祭りでしょ。先月、お寺さんから花祭りの市民大会の切符を頂いたんです。式典と講演とお芝居があるから、どうぞ行ってくださいって・・・・ |
おばさん | そういえば今日は四月八日ねえ。ここへ来るときも長田の商店街で仏教会の人たちが甘茶のお接待をしてはったわ・・・それで |
お母さん | 大倉山の文化大ホールでそれがあるんです。ひょっとしておじいちゃん、そこへ行くつもりだったんじゃないかと思うんです。お寺さんの話を聞いていましたから・・・・・だからあの辺で迷っているんじゃないかと・・・・・ |
おばさん | わかったわ、いっしょに行ってみましょ。懐中電灯、持ってるわね |
お母さん | ええ、本当にすみません |
あばさん | なに言うてんの・・・・それにしても、あのお父さんがねえ・・・・・ |
・ | ーーーおばさん、少し涙ぐむ。急いで二人、上手へ退場 |