劇団パンタカ第7回公演:昭和63年5月6日(金):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『ボクのおじいちゃん』
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(5)

第四場 ーーーお母さん、花道を走り出てきて、中央でしゃがみ込む。顔を覆って泣いている
お父さん お〜い、みよ子ーーー歩み寄って、
どないしたんや、いったい
お母さん あなたは毎日、気楽でいいわねえ
お父さん なんだよ、その言い方は
お母さん あなたにはわからないによ
お父さん わかってるさ・・・・おやじの状態が限界だってことは・・・・
お母さん わかってて、よくもあんなことが言えたもんだわ
お父さん なんのことだよ
お母さん ほら、やっぱり、なんにもわかってない
お父さん 何を言ってんだ、まったく・・・・・いいから言ってみろよ
お母さん あ〜あ、もういいです
お父さん いいこたないよ。言わなきゃわからんじゃないか
お母さん 言ってもしょうがないからもういいです
お父さん ああ、いらいらするなあ。俺だって会社で疲れてるんだ。そうそうお前の気に入るようにばっかり言ってられないよ
お母さん そうやって、朝はさっさと会社へ。帰りが遅くなったって平気でメシ、風呂!私をなんだと思ってるの・・・・
お父さん ・・・・・・・・
お母さん お義姉さんだって、たまに来て、口じゃ大変ねなんて言うけど、内心じゃ、私のすることがいちいち気にいらないのよ。この間も、おじいちゃんのご飯茶碗が少し欠けてたら、聞こえよがしに言うのよ。おじいちゃん、口を切らなかった。大丈夫って何度も何度も言うのよ、しつこく・・・・・ああ〜、もういや!
お父さん お前、それは考えすぎだよ・・・・・姉さんだって、いつもお前のこと感謝してるよ。先日も会社へ電話してきて、おやじがあの状態じゃ、家で面倒見るのはもう限界じゃないか、病院か、老人ホームで預かってもらえないのかって。今にお前が倒れてしまわないかと心配だって、言って来たんだよ
ーーーお母さん、顔を上げてお父さんを見る
お父さん しかし、痴呆性の場合は、病院も老人ホームもほとんど駄目だし、特別養護老人ホームは近くにはないし・・・・・一丁目の三好のおばあさんは和歌山の特養に預けられたって、お前言ってたじゃないか、和歌山だよ・・・・いくらなんでも可哀想だよ、まるで姥棄てじゃないか
お母さん あなた、私がそれを望んでるとでも思ってるの
お父さん いや、そうは思ってないよ。だけど現実には他に方法がないからなあ・・・・・どうしてもっと安くていい特別養護老人ホームが近くにないんだ。近くにさえあれば、たびたび会いに行く機会も増えるし、また二,三日、家に帰ってもらうことも出来る。子供でも行ける距離なら、一郎や二郎が行って話し相手になってあげることだって出来るじゃないか。子供や孫から引き離すために、わざわざ辺鄙な郊外に造っているとしか思えんよ。土地が高いから出来ないでは無策すぎるよなあ。ああ〜だんだん腹が立ってきた
お母さん いま、老人会の人たちや、医療団体の人たちが、市内に特別養護老人ホームを造ろうという運動をやってるって、この間、お住っさんから署名を頼まれたわ。仏教会の人たちも応援しているんですって。市の土地を提供してくれるように市に陳情するんですって。わたし、とても嬉しかったわ。いま、さしあたってはおじいちゃんの問題だけど、すぐにわたしたち自身の問題になってくるのよ。そのためにも、今から思いきった高齢者対策をしてくれなくては、いつまでたっても姥棄てが続くわ
お父さん これで寝たきりにでもなったら、ホーム・ヘルパーを頼まないと、とても無理だろう
お母さん そうねえ・・・・でも、私、やってみる。おじいちゃんのお世話をやり遂げたいの・・・・いま、投げ出したら、後の一生、きっと後悔すると思うの。身体は楽になるでしょうけど、心は楽になるかしら。実家(さと)の母に言われたわ。人間と生まれて、今、一番厳しい心の修行をしているんだって、がんばってやり遂げなさい・・・お母さんもそうやって乗り越えて来たんだからって・・・・
お父さん そうか・・・すまん・・・悪かった・・・頼む、この通りだ!
お母さん あ〜〜あ、ちょっとしたヒステリーだったわね。でも、すっとしたわ
お父さん ひとつ、お手やわらかに頼むよ・・・
お母さん でも、ちょっと気を許すと、すぐに元の木阿弥なんだから・・・
お父さん まあ、そういうなよ
ーーーお父さん、お母さんの肩に手を廻す。花道へパジャマ姿の二郎、怪訝そうにじろじろ見て・・
二郎 どうしたの?ーーーお父さん、あわてて手を離す
お父さん こらっ、いつまで起きてんだ、お前は!さっさと寝なさい!
二郎 は〜いーーー嬉しそうに、花道奥へ走って入る
暗転

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