劇団パンタカ第7回公演:昭和63年5月6日(金):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『ボクのおじいちゃん』
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(4)
・ | ーーー一郎、二郎、心配そうにしながら、上手へ出かける。 お母さん、洗面器とタオルを用意する。ピンポ〜ンと玄関のチャイム。上手へ迎えに出る。小早川先生、女性の 看護師、往診。 |
お母さん | ーーー歩きながら、 あの〜、いつものようにお風呂場で、おむつを外しましてシャワーで洗ってたんですけど、急にヘナヘナッとなりまして・・・・ |
小早川先生 | ーーー血圧、脈拍、等を診察する うん、そうですか。とくにどこも悪くないようですがねえ、うん・・・まあ、お注射を一本しておきましょうかね、うん ーーー自分でうなずくくせがある。注射を打つ、片づけて手を洗い、拭いている。おじいちゃん、う〜んと唸って正気づき |
おじいちゃん | あ〜、みよ子さん。ご飯はまだですか |
お母さん | おじいちゃん |
小早川先生 | ああ〜、おじいちゃん、気がつきましたか。はは、こりゃ、お腹が空いておったんですよ。きっと、うん、そうだ、そうだ、うん |
お母さん | まあ、おじいちゃん、びっくりさせて(目頭を押さえ)ああ、良かった。いますぐ、ご飯を持ってきますからね。先生、どうもありがとうございました・・・・ |
小早川先生 | はっ、はっ、お腹が空いて眼をまわしましたか。ところでおじいちゃんの好物はなんですか? |
お母さん | 先生、それが芥子明太子ですの。胃が荒れないかと思うんですけど |
小早川先生 | そうねえ、そうとう辛いですからねえ、うん。でも味覚はある程度、年とともに鈍くなりますから、好きで食べておられるなら、別にかまわんでしょう。(お母さん、少し首をひねる)いや、実は私も大好物でしてね |
おじいちゃん | みよ子さん、芥子明太子はまだですか? |
お母さん | はいはい、先生、いいでしょうか? |
小早川先生 | はっ、はっ、いいですとも |
お母さん | では、ちょっと失礼して・・・・ |
小早川先生 | どうぞどうぞ、ひとつおじいちゃんの食べっぷりを拝見しましょうか。うん、そうだ、わたしにも一杯呼んでくれませんか。実は朝ご飯まだでしてね。うん、芥子明太子でお茶漬け一杯、頂ければありがたいんですがね。うん |
お母さん | お茶漬けですか。それではあんまり失礼ですわ |
小早川先生 | いやいや、お茶漬け結構、大結構!家内がうるさくて、芥子明太子を好きなだけ食べさせてくれんのですわ。肝臓に悪い、胃ガンになる言いよりましてね・・・一度、たっぷり芥子明太子をまぶしたお茶漬けを食べたいと思っておりました。うん、ぜひ、ぜひ |
お母さん | そうですか、うちではそんなわけでいつも切らさないようにしておりますが、奥様に叱られそうですわ |
小早川先生 | もちろん、ないしょですよ!きみ、わかってるね。ーーー看護師を軽く睨む真似 |
おじいちゃん | みよ子さ〜ん |
お母さん | はいはい、それではすぐに・・・・・ーーー下手へ退場 |
小早川先生 | おじいちゃん、では今の間に少しリハビリの体操をしましょうか |
おじいちゃん | はあ〜 |
小早川先生 | 私がやってみますから・・・・ |
・ | ーーー色々と手を挙げてやってみせる。次におじいちゃんの後ろに回って手を取ってやってみる。ユーモラスに。お母さん登場、小さな折り畳みのテーブルを出し、お茶碗、おはしを並べる。真っ赤な明太子茶漬け、二人、おいしそうに食べ始める。ピンポ〜ンとチャイム。上手へお母さん出る。ゲートボール仲間、三人登場 |
お母さん | ああ、皆さん |
友人A | 山口さん、どうしておられるかと思いましてね。今、公園からの帰りなんですが、いっぺんお顔が見たくて・・・・ |
お母さん | どうぞ、どうぞ、おじいちゃん喜びますわ。今、小早川先生もいらっしゃってるんです。どうぞ、皆さん、お上がり下さい |
友人B | えっ、どこか具合が悪いんですか |
お母さん | (少し笑って)いいえ、今、お二人で食事をなさってますの |
・ | ーーー友人達、顔を見合わせる |
お母さん | さあ、どうぞーーー友人達、中央へ |
友人A | 先生 |
友人B | 山口さん、お元気ですか |
小早川先生 | いや、これは、これは |
・ | あわてて茶碗をおじいちゃんの方へわたし、おはしをテーブルの下に隠す。おじいちゃん、大喜びで二杯目を食べにかかる |
友人B | 先生、山口さんの具合はいかがですか? |
小早川先生 | ああ、えへん、う〜ん、まあ、こういう様子ですからねえ |
友人A | しっかりした方でしたがねえ。ゲームも上手いし、審判をやっても、きびきびと厳しくて、我々頼りにしてたんですがねえ。わからないもんですねえ |
友人B | でも奥さんがよくしてあげてるから、おばあちゃんもきっと感謝してらっしゃいますよーーーお母さん、恐縮する。友人B、お仏壇の方を拝む。看護師、時計を指し示す |
小早川先生 | おっとっとっとっ、こりゃいかん。患者さんが来て待っとるにちがいない。奥さん、失礼します。皆さん失礼ーーー立ち上がって、おじいちゃんの前に空になったお茶碗二つを恨めしそうに眺めながら、上手へ退場。 ーーーお母さん、送って行き、 じゃあ、どうも、この次ぎ・・・・頼みますよ、(手まねをする) |
お母さん | (笑いをこらえながら)はい、どうもありがとうございました |
・ | ーーーお母さん、戻ってきて |
友人C | 小早川先生は気軽に往診して下さるからありがたいわねえ |
友人A | わりに往診をいやがる先生が多いらしいよ |
お母さん | そうですねえーーーいいながらお茶を出す |
友人B | あ〜ら、恐れ入ります。どうぞ、もう、おかまいなく |
お母さん | あのお、すみませんが、しばらくおじいちゃんの相手をしてあげてくれませんか、お願いします |
友人達 | ああ、いいですよ、どうせ、ひまですから |
お母さん | 助かります。今のうちに大急ぎで市場へ行って来ます。なにしろ眼が離せないもんですから |
友人C | 大変ねえ、行ってらっしゃい。私たちが留守番してますから |
お母さん | ありがとうございます。よろしくお願いします。ーーー買い物かごを持って、下手へ退場 |
友人B | 山口さん、私たちのチームがね。今度、市の大会へ区の代表で出るんですよ |
おじいちゃん | はあ・・・いつもお世話になりまして、勝手いたしております。あ・・・・・みよ子さん |
友人A | (互いに)えらく他人行儀ですなあ。やっぱり、よくわかっておられんみたいですなあ |
友人C | すっかり、お嫁さんに頼っちゃって、ねえ、私たち女が後に残ってあげないと、男の人は気の毒ですねえ |
友人B | でも、私たち女だって、ぼける人はひどくぼけるんですから。こればっかりわねえ |
・ | ーーー友人A、ボールとスティックを出して、「思い出すんじゃないか」「持たしてあげましょう」おじいちゃんに持たせる。友人B、C「大丈夫ですか?」おじいちゃん、ボールを両手で握って、ゆっくりと感激していく面持ち、すっくと立ち上がって、スティックを構えて、慌てて友人達が止める間もなく、上手の方へ強く打つ、ガラスの割れる音、おじいちゃん、スタスタと元気良く上手の方へ行きかける。友人達、頭を抱える「ああ〜、やっちゃった」・・・「止めないと」「おじいちゃん!」「山口さん!」大騒ぎのうちに暗転 |