劇団パンタカ第４回公演：昭和６０年４月９日：神戸文化大ホール
【釈尊降誕祝典劇】
『王舎城物語』ーー本当のしあわせを求めてーー、一幕十場
配役：釈尊・・・林　市郎、ビンビサーラ・・・浅野正運、イダイケ・・・中島由子、アジャセ・・・立花正則、王妃・・・坂本弘子
デーヴァダッタ・・・中野天道、ジーヴァカ・・・藤本慈晃、月光大臣・・・佐々木晟夫、大臣Ａ・・・湯浅大雄、牢番・・・岸　秀介
占者・・・明石和成、刺客・・・浅野孝次、仙人（声）、衛兵たち、インド舞踊・・・西村英子、大谷能子、合唱・・・浜田諭稔、
ナレーター・・・矢坂誠徳ディレクター・・・甲斐宗寿、衣装・・・西村英子、脚本・演出・・・冨士玄峰、舞台美術・・・川下秀一

第三場

占い者	「大王様。おきさき様のお腹の子はたしかに男のお子様に相違ございません」
大王	「おお、やはりそうか、めでたい、めでたいぞ。（占い者が王妃のベッドから遠く離れて行き、沈んでいる様子を見て）どうしたのだ。なにか気になることでもあるのか」
占い者	「はい。こんなことを申し上げてもよいか・・・・お怒りになるのでは、とはばかられます」
大王	「よい、なんでもよい。ありていに残らず申してみよ」
ーーー占い者、大王に近づき、大王の耳に口を寄せて	・
占い者	「ははあ！恐ろしいことでございます。このお子様は生まれる前から、陛下とおきさきお二方をたいそう恨んで宿っておられますから、御成人の後はきっとお二方に仇をなすでありましょう」
大王	「なに！それはまことか？！」
占い者	「おそれながら」
イダイケ	「あなた、なにか・・・」
大王	「いや、なんでもない、なんでもない！　う～ん。下がるがよい」
ーーー占い者、退場	・
大王	「恐ろしいことだ！仙人の恨みがこもっているとは！」思案しつつ・・・「生まれてくる我が子が親の私たちに仇をなすとは・・・・なんという恐ろしい予言だ。いや、この予言を成就させるわけにはいかぬ」
ーーーイダイケに歩み寄る	・
大王	「イダイケよ。恐ろしいことが起きるのだ。心を落ち着けてよく聞きなさい。そなたのお腹の子は望まれぬ子であった」
イダイケ	「えっ。なんと仰せられました。我が耳を疑うそのお言葉は？」
大王	「恐ろしいことだ。生まれる子にはかの仙人の恐ろしい恨みがこもっていると占い者が申した。成長すれば我が王家に仇をなすであろうとも・・・・。このままでは済まされぬ。よいか、解るであろう。わしの申すことの意味が」
ーーーイダイケ、はっとして後へ下がり、身をかばい・・・	・
イダイケ	「いやでございます。占い者の申すことはいつわりでございます。生まれてくる子は私の、いえ、私たちの大事な子です。こうしていても、小さな足がお腹を蹴ったりして可愛く動くのです。ああ、愛しいこの子をどうせよ、と仰せられるのです。お慈悲でございます。それだけはお許し下さい。なにとぞ、お慈悲を」
大王	「他に道は無いのだ。国の安泰のためだ・・・・・」
イダイケ	「こんな情けないことがあるでしょうか。あれほど待ち望んだ子の死を願わねばならないとは。ああっ、私にはとても・・・・・・」
大王	「許せ！なにごとも国のため、王家のためだ。気を強く持つのだ。災いは除かれねばならぬ」
ーーーイダイケ、顔を覆って泣き伏す	・
ーーー暗転ーーー	・