第七場

NA、皆さん、驚かれたでしょう。お釈迦様
の時代に、新聞,週刊誌、テレビなどあるはずがないじゃないかと。でも、どうでしょう。もし、当時、マスコミがあって、フォーカスやモーニングショーがあったら、きっとこんな具合だったでしよう。お釈迦様とその教団は大変な危機にみまわれ、下手をすれば、このスキャンダルが命取りになって
、二度と立ち上がれなかったかも知れませんね。では、2500年前のそのとき、事件の結末はいったいどうなったでしょうか?
ーーー引き割り幕、音楽とともに開く。講堂にて説法の場。マハー・パジャパティー
立って反物を捧げる。
パジャパティー 「世尊よ、この新しい二枚の布は私が以前、世尊のために、糸を紡ぎ、機を織ったものでございます。
どうか、お納め下さい」
釈尊 「いや、それは教団全体に供養せられたが良い。そうすれば僧団も私もともに供養を
受けたことになる」
パジャパティー 「もっともなお言葉ですけれど、私は世尊にお召し頂きたいのです」
釈尊 「いや、私だけが受けるわけにはいかない」
パジャパティー 「世尊よ」
釈尊 「いいや」
アーナンダ 「マハーパジャーパティーの布を納めたまえ。彼女は世尊に対して大切な方です。叔母
であり、育ての親であります。しかも世尊もまた、彼女に大きな利益を与えられました。
彼女は世尊によって、仏、法、僧、の三宝に帰し、殺さず、盗まず、邪淫せず、嘘つかず
、酒を飲まないという五つの戒めを守り、四諦の道理を疑いません。世尊よ、彼女の願いを容れたまえ」
ーーー釈尊、無言でうなずく。
パジャパティー 「ありがとうございます」
釈尊 「パジャパティーよ。慈しみの心はすべての善いことの根本である。人が常にあわれみの心を持ち、よくその財物を布施するならば、その人は大いなる功徳を得るであろう。
世にはよく『私には人に施すものがない』という者がある。しかしそれはその人に財がないのではなく、まごころがないのである。どんなに貧しい人であっても、少々のパンくずくらいは持っているであろう。それを蟻に施すのも立派な布施である。また、どんなに暮らしに困っている人でも、まさか裸ではいまい。自分の衣の糸を一本抜いて、他のほころびを繕うのも、また大いなる施しである。また、まことに一物もなく、身一つであるならば、その身をもって、ひとの奉仕するのを助けるがよい。それも出来ぬ身体であったなら、ただ他がよい施与をするのを見て、喜びの心を起こせ。それだけでもその人は大いなる功徳を得るであろう。パジャパティーよ。自分が大いにゆとりが出来てから大いに施そう、などと考えてはならぬ。富んでから施そうと考えるのはよくない。パジャパティーよ。要は心である。その心がなければ国王といえども一銭の施しも出来ないであろう」
ーーー姉と大きなお腹のチンチャー登場。
主人たちもおどおどと付いている。
「ちょいとゴータマさん。けっこうなお話のところ、お邪魔しますよ。お嬢様。ご自身の口からおっしゃいますか」
チンチャー 「ああ〜、あなた。いとしい、あなた。あなたは人々に尊い教えを説いていらっしゃる。でも、どうして私にはそんなに冷たいのです。明日にもあなたの子供が産まれるのですよ。どうか、お願いです。こちらのどこかにお産のための部屋を用意して下さいな」
ーーー聴衆、騒然となる
アーナンダ 「なんということを。ここはお寺で、しかも説法の場ですよ。とんでもない言いがかりです。皆さん、この人たちの言うことを信じてはいけませんよ。さあ、迷惑です。帰って下さい。
ーーー聴衆の一部 「そうだそうだ!」
バラモンA 「なんだい!なんだい!都合が悪いもんだから追い返すのかい。おれたちゃ黙っていないぞ〜」
バラモンB 「はっきりさせろ、はっきり」
ーーー聴衆の一部 「そうだ、そうだ!」
アーナンダ 「ああ〜、むちゃくちゃだ〜」頭を抱える。
釈尊 「アーナンダよ。人々よ。静まるがよい。事の真相は私とこの女とが知っているのみである。あなたがたは静かに見ていなさい。真実は自ずと明らかになるであろう」
「そうとも、そうとも、真実は一つだよ。ゴータマ、あんたは楽しむだけ楽しんでおいて、それでほっかむりかい。あんまり無責任じゃないか!」
バラモンA 「そうだ、そうだ、無責任だぞ」
バラモンB 「こうなったら仕方がない。恐れながらとお城に訴え出てやるぞ。どうだ、困っただろう」
チンチャー・姉、Bをこずく。
「(小声で)ちっ、しいっ〜、馬鹿だねえ。余計なことを言うんじゃないよ。調べられたら
おしまいじゃないか」
チンチャー 「いいんです。本当はことを荒立てたくないんです。私はただ、安らかにこの子を、あなたの子を産みたいだけなんです。私たち母子を世間の非難から守ってほしいだけなんです」
バラモンA 「(小声で)よく言うよ、まったく」

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