ーーー下手からチンチャー女、登場
チンチャー 「こんにちわ、お邪魔かしら」
ーーーバラモンたち、ギクリとした表情
チンチャー 「おや、兄さんたち、どうなすったんです。お二人とも
虫歯でも痛むんですか、それとも姉さんにへそくりでも
取り上げられたの」
バラモンA 「なにをたわけたことを・・・・・」
バラモンB 「(傍白)あいかわらずの厚化粧だねえ」
チンチャー  「なにか言った!・・・・ところで姉さんは?」
バラモンA 「ああ、奥にいるよ・・・・動くと腹が減るからといって、しょっちゅう
横になってるよ・・・・ああ〜情けない・・・・お〜い、お〜い」
ーーー上手、奥から
「なんだねえ、大きな声で、空きっ腹に響くじゃないか」
バラモンA 「チンチャーが来ているんだよ。お前に用事だそうだよ」
ーーーチンチャーの姉、登場
「ああ、チンチャー、しばらく顔を見せなかったねえ。相変わらず
派手なおべべで金廻りが良さそうじゃないか。よく来ておくれだねえ。
なにか食べるものでも持って来てくれたのかね」
チンチャー 「おやまあ〜、姉さん、また一段と痩せてしまって、可愛そうに。
それなのに兄さん、あなた方は昼間からお酒ですか」
ーーーバラモンたち首をすくめる
バラモンA 「いや、これは・・・、なに、般若湯といってな・・・・・」
チンチャー 「フン!」
「こんなになっちまったのも、もとはといえば、あのゴータマがこの城下に
やって来て、変な新興宗教をはやらせたからだよ。それにしてもあんたたちが
だらしないんだよ。よそさまがご馳走に預かるのを、ただ指をくわえて見てるだ
けかい。何とかしたらどうなんだい。」
バラモンB 「義姉さん。そんなこと言ったって、ゴータマには国王のビンビサーラさまが
格別、肩入れをしていなさるんだ。我々、貧乏バラモンにはどうしようもない。
手も足も出ないよ」
チンチャー 「まあ、弱気だこと。これじゃあ、どうしようもないわねえ・・・・・」
「チンチャー、お前のその目はまたなにかやらかそうという目だねえ。
この前の金持ちの旦那が、一晩の患いでコロッと亡くなったときも、お前、
そんな目をしてたよ。もっとも私たちもおすそ分けに預かって、しばらく
いい思いをさせてもらったっけ。すると、なにかい、そろそろ次の旦那が
出来上がったのかい」
チンチャー 「まあ、いやあね、いやだわ。変なこと言わないでよ。人聞きの悪い。わたし、
未だにあの旦那さまのことを夢に見ては枕を濡らすことがあるのよ。まあ、
そうは言っても、わたしのことだから、周りの男の人が一人に
しておいてくれないのよ」ーーー笑う
ーーーバラモンたち、下を向いて笑いを含む
「おや、まあ、たいした自身だこと。まあねえ、お前にメロメロだった旦那の
ことだから、一服盛られたからって、案外、恨んで出たりはしないだろうよ」
ーーーチンチャ、目つき鋭く
チンチャー 「しいっ、滅多なことを口走るんじゃないよ。壁に耳ありだよ、ね、兄さんたち」
ーーーバラモンA、B、おびえたような目で
女二人を見る
「なあに、心配いらないよ」
チンチャー 「ふふん、でも、姉さんが言ったこと、まんざら、今、私が考えていることと
関係なくはないわ」
「そうかい、わたしゃ、お前のやることを止めたりはしないよ」
チンチャー 「そうでなくっちゃ、そこで一つ、姉さんに手伝ってもらいたいのよ。それから
兄さんたちにもね」
バラモンA 「わしたちに出来ることかね」
バラモンB 「いったいなにをするのかね」
チンチャー 「ええ、ええ、簡単なことよ。あんたたちは市場やお寺や人のたくさんいる
所へ行って、ある噂を流してもらいたいの。後は女である私たちにしか
出来ないことよ。姉さん、まずは奥で作戦会議といきましょう」
「いいねえ、なんだかワクワクしてきたよ。それにしてもチンチャー、
作戦会議の前に、腹ごしらえがしたいんだけどねえ」
チンチャー 「おや、まあ、しょうがないわねえ・・・・これからあの生意気なゴータマに
一泡、吹かせてやろうってのに、これじゃあねえ。じゃあ、義兄さんたち、
悪いけど、これでなにか食べるものをみつくろってきてちょうだい。
わたしたちは重要な作戦会議で手が離せないから、じゃあねえ」
ーーー金を放り出す。バラモンたち、
あわてて拾い上げ、
バラモンA 「やれやれ情けない」
バラモンB 「ちえっ、こうなりゃ、女に生まれて来るんだった」
バラモンA 「とほほ!」

ーーー暗転
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