第四場

(NA)チンチャーは一体、なにを企んだのでしょう。
それからしばらくして、毎日のように美しく着飾
ったチンチャーの姿が竹林精舎への道筋に現れる
ようになりました。人々が精舎から帰って来る頃に
精舎に向かい、翌朝、人々がお釈迦様のお話を聴く
ために精舎に出かけると、同じ道を帰って来る
チンチャーにしばしば出会うのでした。
ーーー町の人、三人、下手から登場
町の人A 「いやあ、昨日の話は実にいいお話でしたなあ」
町の人B 「なにかこう眠っていた心が呼び覚まされたような
気がします」
町の人C 「やはり、それというのも、あまりにも今のバラモンたちが
情けないありさまだからですよ。程度が悪いし、俗っぽく
なってしまって金をためることばっかり」
町の人A 「建物ばかり立派にして、なにかというとたたりを持ち出すし、
お供えを強要するし」
町の人B 「おしゃかさまの教えを聞いてからというもの、形式だけの
古い信仰にしがみついているのが恥ずかしくなってきました」
町の人A 「今日もまた、ありがたいお話が聴けるかと思うと、私の足も
軽くなりますよ」
町の人B 「なにより、私はお弟子様方の清潔なお姿に心打たれるのです。
皆さん、謙虚で落ち着いておられるし・・・・・・」
町の人B 「修行される心構えが違いますよ・・・・・おしゃかさまの教えこそ
これからの世界を導いてくださる教えでしょうねえ」
ーーー上手からチンチャー女と姉登場、三人と
すれ違う。三人、立ち止まり、チンチャーの妖艶さに
唖然として・・・・
町の人C 「ちょっと、ちょっと、ご覧になりました?あの女の様子を」
町の人B 「精舎の門から出て来ましたなあ」
町の人A 「まだ朝早いというのに今頃帰って行くとは変ですなあ」
町の人C 「いや、実に変です」
町の人A 「あっ、あのうわさの・・・」
町の人B 「なんですって!」
町の人C 「うわさってなんですか?」
町の人A 「いや、実を言うと最近、変なうわさを聞いたのですよ」
B 「ほ〜ほ〜」
C 「それはどういう・・・・・」
A 「いや、市場で聞いたうわさなんですがね・・・・・ちょっと、それが
ひどい話なんですよ・・・・・・」
B 「ほ〜ほ〜」
C 「それで」
A 「いや、ちょっと、私の口からは言えないなあ。とんでもないうわさ
なんだ。皆で笑いとばしたんですけどね。しかし、そのうわさの女が
たった今、精舎から出て来ましたねえ。いや〜、ひょっとすると、これ
はえらいことかも知れませんよ」
B 「あなたねえ、一人で納得してないで、私たちにも説明して下さいよ」
C 「そうです。そうです。人のうわさほど気になるものはないんですから」
A 「ああ、すみません。すみません。それにしてもねえ・・・・」
B 「ああっ、じれったい」
C 「ちょっとお、この〜」
A 「それじゃ、思い切って言いますがねえ、あの女とおしゃかさまが
おかしいっていうんですよ」
B 「おかしいって?」
C 「なんです、そりゃあ」
A 「つまり二人はできてるって」
B 「なんですって!」
C 「まさか!」
ーーーバラモンA・B登場、様子をうかがっている
A 「そうでしょう。そんなこと考えるだけでも罪深いことですよねえ。ああ、
なんてことを言ってしまったんだろう。お許しください。申し訳けありませ
ん」−−−精舎の方を拝む。
ーーーバラモンA・B、聞こえよがしに前を通る。
バラモンA 「いやいや、本当の話だよ。ゴータマ、いや、おしゃかさまが女の色香に
迷っているっていうのは本当の話だよ〜」
バラモンB 「そうだ、おれたちははっきりこの目で見たんだぞ〜」
ーーー町の人A,B,C、きょとんと見送る。 「なんですか、今の人たちは?」「さあ〜」
B 「わけのわからない人はどうでもいい。それにしてもあきれた人ですねえ。
言うにこと欠いて、おしゃかさまとあの女がですって」
A いえ、わたしはただうわさをちらっと耳にしただけですよ。私はそんなこと
信じませんよ。あたりまえですよ。そんな」
B 「でも、あの女、精舎から帰って来ましたよねえ・・・・こんな時間、まだ誰も
いないはず、たいてい私たちが一番乗りなんですから」
C 「そういえば、私たちに出会ったので、しまった、まずいなあという様子
でしたよ」
A 「そういえばそうでしたなあ」
B 「ということは、精舎で夜を過ごして朝帰り・・・・ええっ・・・・」
ーーー三人、互いに顔を見合わせる

ーーー暗転
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