(2)
ーータイミングよく、バラモンが帰ってくる。オーバーにコミカルに | |
バラモン | 「今、帰ったぞ。奥や!」「奥や!」 |
妻 | 「・・・・・・・・・・・・・」ーーすすり泣く。 |
バラモン | 「おや、どうしたんだ。何か、あったのか?」 |
妻 | 「いいえ、・・・・・・・何でもありません」 |
バラモン | 「なんでもないったって、その様子はただごとじゃないじゃないか。いったい何があったというのだ。どこか苦しいのか?どこか痛いのか?」ーーなでさすらんばかりにすり寄る。 |
ーー妻、すいっとかわすようにして、身を起こすと、手で顔をおおいながら、顔をそむけて、あわてて破れた胸元をわざとらしくかき合わせる。 ーーバラモンは驚いて、いっそう激しく問いただす。 |
|
バラモン | 「いったい誰がこんな目に遭わせたのだ。盗賊かそれとも。・・・・・・」 |
妻 | 「なにをおっしゃいます。わたしは、わたしは・・・・・」 |
バラモン | 「ええい、泣いておってはわからん。はっきり申せ」 |
妻 | 「あなたがいつも可愛がって褒めておられる賢しい弟子から、私はこのような辱めを受けました。ああっ。」ーーよよと泣き崩れる。 |
バラモン | 「なに」 |
ーー呆然として、やがて怒りに狂おしく、 | ・ |
バラモン | 「なんということだ。あのアヒンサカがお前の身体を奪ったというのか。あのアヒンサカに。お前は・・・・・。わしなんか、遠ざかってから、ずいぶん久しい。ああっ、久しいというより、もう駄目だというのに。ええい、なんたることだ」 |
ーーバラモン、部屋の中をうろうろ歩きつつ | ・ |
バラモン | 「わしが特に目をかけ、弟子としてこよなく可愛がってやったその思いを仇でかえすとは。しかもわしの一番痛いところを踏みつけるとは・・・・・・なんという恩知らずの恥知らずだ・・・・・・。ええい、今に見ておれ。どうしてくれよう。この辱めを千倍にも万倍にもして、あやつに思い知らせてやるのだ」 |
妻 | 「あなた、わたしがうかつだったのです。あの子を信じたばかりに」 |
バラモン | 「よい、よい。おまえのその優しいところに、あやつめはつけいったのだ。今、わしが仇をとってやる。わしが師であることを思い知らせてやる」 |