(3)

(NA)老いたるバラモンは嫉妬のあまり、アヒンサカに殺人の罪を犯させ、現世においては刑罰を、来世においては地獄の苦しみを受けさせようと考えました。
バラモン 「アヒンサカ!アヒンサカ!」
アヒンサカ 「はい、先生、ただいま」ーー入ってきて挨拶をする。
「先生、何かご用でしょうか?」
バラモン 「用があるから呼んだのだ!」
ーーアヒンサカの堂々たる若い身体をねたましげに見やりながら、ことさらに重々しく
バラモン 「用というのは他でもない。お前のバラモンとしての修行もずいぶん進んでいる。すでに道の奥義を極めたと言っても良いが、ただ一つ
最後にやらねばならぬことが残っておる」
アヒンサカ 「先生、それは何でございますか」
バラモン 「わしの与える剣を取って、町の四つ辻に立つのだ。そこで百人の人の命を絶て、一人一人の小指を切り取り、百の小指をつないで首飾りとするのだ。それを神にそなえよ。そうすればお前のバラモンとしての修行は完成するであろう。ゆめゆめ疑うでないぞ」「さあ!」
ーーアヒンサカが驚くひまもなく、バラモンは剣を差し出し、アヒンサカは受け取ってしまう。アヒンサカの独白。悲痛な調子。
アヒンサカ 「なんという恐ろしいことを師は命じたまうのか。あ・・・しかし、師の命令は岩山よりも重い。弟子として背くわけにはいかない。人を殺せば道義を失い。命に背けば良い弟子とは言われない。あ・・・どうして師はこんな酷なことをおっしゃるのだろう。いったい私はどうすればいいのだ。」
ーーアヒンサカ、剣を抱いて悩み苦しむ。頭を抱える。
顔を伏せていたアヒンサカ、顔を上げてにやりと笑う。
アヒンサカ 「そうか。フッフッフッ。何も迷うことはない。おれはおれのなすべきことをなせばいいのだ。そして道の奥義を極めるのだ。誰にもおれの修行の完成を邪魔はさせんぞ。たとえ師匠であろうと、たとえ師匠の女であろうと・・・・フッフッフッ。フワッハッハッハッ・・・・・。
ーーアヒンサカ、形相ものすごく隣室に飛び込むと、師のバラモンの首を刎ね、返す刀で師の妻を刺し殺す。血のしたたる剣を下げてたたずむ。やがて、震える手で、二人の手から小指を切り取る。ヒッヒッと笑いながら、顔をひきつらせて
アヒンサカ 「まず指が二本、手に入った。節くれ立った老いぼれの指と、ぽって
りと白い牝豚の指が・・・・・残るは九十八本。よかろう。醜悪な人間を切って切って切り刻んでやる!人は俺のことを指の首飾りをした男。アングリマーラと呼ぶだろう。おれはおれの道を行くだけだ!」
ーー下手へ走り去る。
暗転
第二場

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