劇団パンタカ第5回公演:昭和61年4月8日(火):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『長生王子ものがたり』
ーー恨みは愛によって鎮(しず)まるーー
(1) (2) (3) TOPへ HOME
(4)
梵与王 | おお、チャンドラの子よ、余が眠っているとき、コーサラ国王長寿の王子、長生が余の命を奪わんとして、迫って来たのだ。ああ・・・・夢であったか。しかし、それにしても恐ろしい形相であった。(ぶるぶるっと震えて)冷や汗でぐっしょりだ。チャンドラの子よ、何か着替えはないか。(立ちつくしている長生を見て)これっ、どうした。着替えはないかと申し付けておるに |
長生王子 | 大王さま、よっくお聞き下さい。私こそ、今ごらんになった夢にはあらで、まっことコーサラ国王長寿の子、長生なのです |
梵与王 | なにをたわむれを申す。まだ、二日酔いから醒めておらんのか |
長生王子 | たわむれではございません。チャンドラはかってのコーサラの大臣 |
梵与王 | なにっ、それはまことか |
長生王子 | どうして偽りを申しましょう。亡き父、母の仇を討たんと、今日までお側近くに仕えて、その機会を窺っておりました |
梵与王 | (後ずさりしながら)待てっ、待て、待ってくれ。思いもよらぬその方の言葉、信じられぬ。・・・・・いや、信じたわしが馬鹿であった。姫の遊び相手にと召し抱え、心利いたる仕事ぶりにいつしか心を許していたのだ。かねてより誰も信じてはならぬと自らに言い聞かせていたのも忘れ、王者の心淋しさに、つい、忠義な奴よ、と傍ら近くに置いたのが、わしの不覚・・・・・・ |
長生王子 | ーーー睨み付けながら短剣を構え、一歩踏み出す。梵与王、剣を探そうとするが、あたりにないので腰を落としたまま、 いざって逃げようとする。長生王子、膝を着き両手を着くと、短剣を前に置いて 大王さま、私には眠っておられるあなたを殺すことは出来ませんでした。勇気が無いからではありません。今でもお望みと有れば戦って、いかに大王さまが強くとも、たとえ刺し違えてでも、あなたのお命を奪うことは出来るでしょう。そうではないのです。可愛い姫さま、お妃様や、人々の嘆き、悲しみ、それらがやがて恨み、憎しみとなって、またも仇討ちが始まるのです。父、長寿王は刑場で叫びました。「長きに過ぎて、見てはいけない。急いではいけない。恨みは恨みによって鎮まらず、恨み無きによって鎮まる」と。私は今日、はじめて心の底から亡き父王の教えがわかりました。私は恨みを捨てました。大王さま、私をお許し下さい |
梵与王 | ーーー感動して、 おお〜、おお〜、なんといえば良いのだ。言葉にならぬぞ。・・・・・おお、許してくれ。わしの方こそ許してくれ |
・ | ーーー二人、相寄って手を握り合う。兵士達、駆け入って来る。 |
兵士達 | 大王さま、ご無事でございましたかーーー二人の様子を見て いかがなされましたか |
・ | ーーー梵与王、涙をはらって ああ、なんというすがすがしい和らいだ気持ちだ。・・・・・・わしはまるで生まれ変わったような気がする・・・・・・ |
・ | ーーー兵士達、けげんな顔をする |
梵与王 | はっ、はっ、はっ、おまえたちが変な顔をするのも無理はない。そうだ、お前達、もし、今、ここにコーサラの王子、長生がいたとしたらなんとする |
兵士 | なんとおおせられます。言うまでもないこと、ただちに斬り捨て、八つ裂きにいたしてくれましょう。 |
梵与王 | そうか、では言うが、このものこそ、実はコーサラの長生王子じゃ |
・ | ーーー兵士達、飛び退き、剣を抜いて詰め寄る |
梵与王 | よいよい、ものども、剣を収めよ。驚くことはない。わしは長生王子に命を助けられ、わしは王子の命を助けた。二人は許し合うたのじゃ。・・・・ところで、愛する長生よ、長寿王の遺言だが、半分は解るが、前の半分が解らぬ。どのような意味なのか、教えて欲しい |
長生王子 | 大王よ。長きにすぎて、みてはいけないとは、恨みを長く抱くな、急いではいけない、とは友情を破るに急であってはならぬ。恨みは愛によって鎮まるということを私に教えたのです |
梵与王 | おおっ、胸を打つ言葉じゃ。余は今日まで、多くの国を攻め滅ぼし、数え切れぬ人の命を奪ってきた。その恨みを集めれば月にまで懸かる橋ともなろう。今、そなたの父王の言葉で眼が覚めた。 恨みは愛によって、癒されなければならぬ。コーサラの国はそなたに返そう。そなたの賢い智慧と勇気によって、平和に豊かに治めるがよい。そして、われらと末永く、友としての交わりを保とうぞ。おお、めでたいぞ、めでたいぞ、さっそく城に帰って、祝いの宴を張ることにしよう。さあ、さあ、ーーー音楽、スタート |
第六場(大団円) | ーーー王は長生王子の手を取って、中央正面、幕の方へ、回りながら歩く。ひき割り幕開く。奥にひな壇式に釈尊、仏弟子達、出演者一同。王は王子と王女の手を取って結び合わせるーーー全員の歌 |
・ | ーーー音楽、ストップ。全体照明消え、釈尊にスポット |
釈尊 | 弟子等よ、これが長生王子の物語である。この物語から何を学ぶであろうか。 憎しみは憎しみによって鎮まらない。憎しみを忘れて、はじめて憎しみは鎮まる 他人の悪い点を詮議せず、自らの行為を反省せよ 勝てば恨まれる。敗れたものが苦しむからである 故に、勝敗を捨て、静かに安らかに生活すべきである 恨みの中にあって恨みなく、安らかに生きようぞ 貪りの中にあって、貪りなく、安らかに生きようぞ 仏の道に生きる者は、忍耐と愛とによって、光り輝かなければならない。弟子等よ、争いをしてはならぬ。互いに心和らぎ、和合することこそ、我らの歩むべき道である |
・ | ーーー全体照明アップ、全員、釈尊の方を向いて合掌している 仰ぎ願わくばこの功徳をもって、我らと衆生と皆共に、仏道を成ぜんことを。 |
(NA) | それでは合掌をお願いいたします。これらの尊いみ教えを説いて、私たちを導いて下さるお釈迦様のお名前をお唱えしたいと思います。 南無本師釈迦牟尼仏 南無本師釈迦牟尼仏 南無本師釈迦牟尼仏 |
緞帳降りる | ・ |