劇団パンタカ第9回公演:平成2年4月8日(日):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『私本西遊記』、一幕四場
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第四場 | さびれ果てたブッダガヤ、崩れかけた大塔。菩提樹は青々と繁っている。金剛宝座は半ば埋もれている |
(NA) | こうしてさんざんな目に遭いながらも三蔵法師の一行がようやくお釈迦様がお悟りを開かれた聖地、ブッダガヤに辿り着いたのは貞観四年、西暦六百三十年、玄奘法師二十九才のときでございました |
・ | ーーー玄奘と三人の供、馬を引いて花道に登場 |
玄奘 | おお、この大河こそ、お釈迦様が六年の苦行の後、身を清められたという尼連禅河に違いない。とするとあちらに見える岩山が前正覚山であろう。幸い乾期のこととて河は大方、干上がっている。さあ、一刻も早く渡って大覚寺大塔にお参りするのだ。ああ〜、来たぞ。夢ではない。とうとう、私は来たぞ |
悟空 | 思えば苦難の旅でございましたなあ。わたしにとっても観音様のお言いつけとはいえ、振り返って見れば、ありがたい修行の旅でありました |
八戒 | どれどれ、喉が渇いた。ここの水は特別の味がするかな?ゴクン、ゴクン。な〜んだ、日向臭いだけで水はやっぱり水の味だな。なんということもないわ |
悟浄 | ばっかだなあ。溜まり水なんかを飲む奴があるか。水のことなら俺にまかせろ。今、わが法力をもって、この河の主の龍王を呼び出して格別の水を一杯所望するとしよう |
・ | ーーー沙悟浄、頭の皿を河水でしめしながら呪文を称えると、龍王、下手前面階段下から上がってくる |
龍王 | このところの厳しい日照り続きで身も細り、河床深く潜んでおります私めをわざわざお呼びなされたのはどなたかな |
悟浄 | 汝を呼び出したのはこのわしだ。こちらにおられるお方は大唐国の玄奘三蔵法師様だ。はるばる長安の都を出られてより、すでに四年、ようやっと仏陀成道の聖地ブッダガヤを目前になされたところだ。頼みというのは他でもない。師匠は喉がひどく渇いておられる。水を飲んで頂きたいが、ここいらの濁り水ではお体に障る。汝、速やかに深きところより、甘露水を汲みいだし、我らがお師匠様に差し上げてくれ |
龍王 | これはこれは、うれしいことを承る。我らが先祖、ムチャリンダ龍王はお釈迦様を七日間、暴風雨よりお守りしたと伝えられております。今、また私にも尊い供養の機会が与えられましたことは誠にありがたいこと。しばらくお待ち下さいませ。甘露水を汲んで参りまする |
・ | ーーー渦を巻く音とともに龍王は下手舞台前面の階段を降りて浄瓶(じんびん)を捧げて、再び登場。沙悟浄、鉢を取り出し、浄瓶からとうとうと甘露水を受け、玄奘に捧げる。玄奘、うやうやしく頂き、飲み干す |
玄奘 | 南無本師釈迦牟尼仏、南無本師釈迦牟尼仏。ありがとうございました |
・ | ーーーみんな合掌しあう。舞台、中央に進む。インド僧、数人が散歩している。三人のお供はキョロキョロしている。玄奘、うやうやしくインド僧に近づき挨拶する |
玄奘 | わたしは東方のチーナと言う国から参りました玄奘と申します。久しく夢に思い描いておりましたこの地を今、踏むことが出来まして、感激いたしております。どうかお教え下さい。どちらの方からお参りさせて頂いたらよろしいのでしょうか |
インド僧1 | それはそれは、あなたはチーナの国から参られたのか・・・・・その昔、法顕(ほっけん)という方たちが参られてから久しいこと。今日、再びチーナの方の名を聞くとは嬉しいことです |
インド僧2 | さあ、こちらから、どうぞ、お参りなさい |
インド僧3 | ただ、もうお気づきのように、ずいぶんと境内も荒れておりますが |
インド僧4 | 金剛宝座も二百年ほど前から、土砂に覆われて姿を隠しております。これは世が末となり、人々が正法を棄て邪道に走るものが多いためだそうです。恐ろしいことです |
インド僧5 | あの南側の観音像も、はや胸の所まで地中に埋もれております。あの像が地中に没し去るときは、仏法もまた滅び去ると言い伝えられておるのです |
・ | ーーー中央セリを金剛宝座に仕立て、少しだけ上げておく、下手セリに観音像、半身を下げたセリの中に立てておく |
・ | ーーー玄奘、感激のうちに金剛宝座の前にゆき、合掌礼拝しようとするが、感極まって、やがて五体を地に投げるごとくひれ伏して |
玄奘 | お釈迦様が悟りをひらかれ、成道なされた頃、前世のこの身は、いずこの果てで、どのような生を送っていたものやら自分でもわからない。けれども今、万里の果てからはるばるとここに辿りついて見れば、今や仏法はその発祥の地で衰え、観音像は地中に沈もうとしている。ああ〜、この玄奘はなぜ、これほどまでに罪業が深いのであろうか。ああ〜 |
・ | ーーー打ち嘆き、むせび泣いて容易に起き上がれない。インド僧のあるものは覚えずもらい泣きするものもある。三人の従者もその後ろに座り込んで打ちしおれている |
玄奘 | 世尊よ!こうして訪ねて参りましたのに、一言もお応え下さいませんのか〜。ああ〜ーーー泣き伏す |
引き割り幕開く | ・ |
・ | ーーー釈尊、聖衆、僧たち、金剛宝座、観音像も同時にせり上がる |
釈尊 | 玄奘よ、よくぞ参った。供のものたちもご苦労であった。嘆かずともよい。嘆かずともよい。余の教えは永遠に滅びることはない。今より千三百有余年の後、南天竺の竜宮城において、仏法は再び、人々の間によみがえり、天竺に広まるであろう。それを導くのは一人の菩薩である。その名をアンベードカルという。それまで余の教えは東へ東へと伝わるであろう。今はそなたの大切な役目を果たすがよい。天竺における教法の成果を余さず中国に持ち帰るのだ。そして、多くの人々が学べるように、中国の言葉に翻訳するのだ。これほどの大切な、また大きな事業をやり遂げられるのはそなたをおいて他にはない。玄奘よ、よろしく頼むぞ |
玄奘 | はいーーーふたたびひれ伏す |
・ | ーーー合唱曲、「南無本師釈迦牟尼仏」を一節、称え終わり |
悟空 | あれ、それはそうと馬の小竜はどこへ行ったのかなあ |
悟浄 | ついさっきまで、後ろについていたんだがなあ |
八戒 | あれ、あれ、あそこに、悟空に沙悟浄の兄貴、小龍があそこに |
・ | ーーー小龍、実は竜神、聖衆の間に姿を見せる |
竜神 | 玄奘法師様にお供のお三方、よろしゅうございましたなあ。おかげさまで私めも、宿世のつとめを果たさせて頂き、おかげをもちまして再び仏法守護の竜神の姿に戻ることが出来ました。まことにありがとうございました |
・ | ーーー再び合唱曲「南無本師釈迦牟尼仏」盛り上がり、緞帳降りる。 |
(NA) | それでは皆様、合掌をお願いいたします。この尊いみ教えを説き明かしてくださったお釈迦様のみ名をお唱えいたします。 南無本師釈迦牟尼仏 南無本師釈迦牟尼仏 南無本師釈迦牟尼仏 |