劇団パンタカ第9回公演:平成2年4月8日(日):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『私本西遊記』、一幕四場
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・ | ーーーマハラジャ、妃、上手へ退場ーーースンダリー、台より降り立つ、玄奘に近づく。玄奘、ブルッと震える。 |
スンダリー | シュウセン様、ごらんなさい。月がちょうどお城の尖塔にかかっていますわ。さあ、バルコニーに出ましょうか。夜は長いのです。どうかわたしの手を取ってくださいな |
・ | ーーー玄奘、姫の手を引いて下手に寄る。ベンチに腰を下ろす |
スンダリー | ああ、柔らかくて長い指。お経の巻物より重いものを持たれたことがないのでしょうね |
玄奘 | 恥ずかしいことです |
スンダリー | そんなことはありません・・・・・(玄奘の手に頬ずりしながら)ああ、食べてしまいたい |
・ | ーーー玄奘、ギョッとして立ち上がり後ずさる。スンダリー、じいっと玄奘を見上げているが、急に哀しそうに、悔しそうに歯がみして嘆く |
スンダリー | ああ〜、シュウセン様、どうして隠れておしまいになったの。わたしお城中を探しました。どうしてあのとき、わたしの腕の中から逃げておしまいになったのです |
・ | ーーーいつの間にか、青白いシュウセンの亡霊が玄奘の横に立っている。玄奘、悪寒がしてブルブルッと震える |
悟空 | 出たあ!出たあ!幽霊だあ! |
玄奘 | ヒエェー。ーーー腰が抜けて、座り込む |
シュウセンの亡霊 | スンダリー姫、シュウセンはうらめしゅうございます。修行の旅も何もかも捨てて、あなたを愛したわたしをあなたたちは殺して食べておしまいになりました。でも、そのことはいいのです。それより、またしても別の僧を捕らえて、あなたの貪欲な愛の奴隷にしようとなさる。わたしにはそれが恨めしゅうございます |
スンダリー | シュウセン様、お懐かしゅうございます。幽明境を異にしていても、わたしにはあなたのお姿がはっきり見えます。お声が聞こえます。わたしはあなたと共に生きたかった。でも、わたしたち一族の悲しい掟はそれを許しませんでした。あなたの血肉を頂くことで、新しい命が生まれるのです。シュウセン様、あなたの命がわたしたちの子供の姿となって生まれるのです。ほらっ、そこにごらんになれて |
・ | ーーー中央、スポットライト、照度上がると大きな繭が二、三個(ブラックライトの効果で青白く光る) シュウセンの亡霊、繭のそばへゆっくり歩み寄り、泣きながら |
シュウセン | わたしの命がこんな風に転生するのはいやだ、いやだ。よ〜し、今度はわたしが食べる番だ。そうだ、わたしがわたしの命を食べてやる・・・・・スンダリーよ、思い知るがいい〜・・・・・スンダリー |
・ | ーーーシュウセンの亡霊、繭に覆い被さる。スンダリー、悲鳴を上げる。繭にかけ寄り、シュウセンの亡霊を突き飛ばそうとするが、シュウセンの亡霊、スッとかわし消え去る。スンダリー、あわてて繭を一つ食い破る。サナギが死んでいる。次々と死んだサナギを出し、形相もすさまじく悲嘆にくれる |
スンダリー | ああ〜、わたしの可愛い赤ちゃんたち。ああ〜、坊や〜 |
・ | ーーー上手より八戒、沙悟浄、飛び込んでくる |
八戒 | お師匠、悟空 |
悟浄 | どこにいるんです? |
悟空 | お〜、やっと来たな! |
・ | 悟空、ようやく正体を現し |
悟空 | お師匠様、これで奴等の本性が判りましたよ |
玄奘 | あやうくわたしも精を抜かれて、あげくは食べられ、虫に身を変えられるところであったか |
スンダリー | おのれ、正体を見られたからには仕方がない。もはやこれまで。お父様、お母様、妹たち! |
・ | ーーーマハラジャ、妃、姫たち登場。さかんに糸を吐きかけ、吐きかけ、大立ち回り。舞台、白い糸だらけ。悟空たち身動き出来ない |
玄奘 | 悟空たち、今はただ、わが法力を見よ! |
・ | ーーー端座して、被甲護身・金剛甲冑印を結び、真言を称える 『オン、バザラ、ギニ、ハラ、チハタヤ、ソワカ』をしばし称える。玄奘の上には傘のようになって糸がかからない。玄奘、さらに法語を称える |
玄奘 | 『一口の利剣、忽ちに拈出す。外道天魔みな戦慄す。今日君が為めにす、善く護持せよ。摩訶般若波羅密』 裂帛の気合いと共に智剣印を一閃すると一族、キリキリ舞いしてバッタリ倒れる |
暗転 | ・ |