劇団パンタカ第9回公演:平成2年4月8日(日):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『私本西遊記』、一幕四場
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・ | ーーーこのとき悟空、一匹のアブに身を変えて、飛んできて玄奘の肩に止まる。ブ〜ンという羽音、悟空、黒子になってとんぼ返りをしながら入る |
悟空 | お師匠様!お師匠様!しいーっ、素知らぬ顔で聞いてください。手間取りましたが、やっとのことで忍び込みました。あたりは妖気に充ち満ちております。(この間、妃はマハラジャを脇に連れて行き、こそこそと耳打ちしている)今、ここで本性を現して、小奴らをぶち殺すのはいと易いことですが、なにか深い子細がありそうな様子、ここはひとつわたくしめに考えがありますから、どうか言われるままに応じてください |
マハラジャ | ええい、どうした。黙り込んでいては埒が開かぬ。なんとか言え。ええい、言わぬか |
妃 | ああ〜、これ御坊。殿は人の生き肝が大の好物・・・・・三国一の花婿となられるのがよいか。ナマスとなってテーブルに盛られるのが良いか・・・・・・思案するまでもないと思いまするが |
玄奘 | (深いため息をついて)ほ〜っ、仏、菩薩、諸天善神のご加護もこれまでであったか。仕方がありません。食べられてしまうよりは、還俗して在家信者としてお経を称えさせて頂くことにいたしましょう |
悟空 | 上手い、上手い!その調子、その調子! |
マハラジャ | そうか、そうか、これでまたまた可愛い孫達の顔を見ることが出来る。いったい何人産まれるかなあ。なにしろ我が家系は多産でのお。フォッ、フォッ、フォッ、フォッ、 |
妃 | それには婿殿にも姫にもたんと精を付けさせねばなりません |
マハラジャ | よし、よし、それはわしにまかせておけ、家来どもに言いつけて、たんと生き餌を運ばせてやろう |
悟空 | いよいよ、こいつらは化け物だ。お師匠。今しばらくの辛抱ですよ |
玄奘 | とほほほ、悟空や、わたしゃ、もう神経がもたない。う〜ん |
・ | ーーー玄奘、気絶しかける。妃、再び気付け薬をかがす。玄奘、くしゃみをして気付く |
妃 | さあ、それでは婿殿。祝言の盃ごとをいたしましょう |
・ | ーーー妃、手を挙げて、フーッと息を吹きかけると、玄奘フラフラと立ち上がり、妃に手を取られて、スンダリー公主の横に立つ。マハラジャ、様子を見守っている。妃、盃と酒器を取り、玄奘に持たせる |
玄奘 | これ、悟空、わたしに破戒の罪を犯させるつもりかい。なんとかしておくれ |
・ | ーーー悟空のアブ。妃の顔のまわりをブンブン飛ぶ |
妃 | ええい、うるさいアブだねえーーーパッと手でつかみ、パクッと口に入れる。が、ペッと吐き出す。その隙に玄奘はマハラジャにも気付かれぬよう、襟の間に酒を流し込む |
妃 | ああ、なんて変な味だろう。いくら虫の好きな私でもこれはたまらない。ペッ、ペッ、ペッ、ペッ、 |
悟空 | ウヘエ〜、気持ち悪い!身体中、ベタベタのヌルヌル、こいつらいったいなんなんだ |
・ | ーーー妃、いそいそと玄奘の盃を取り、満足そうに姫のそばに行き、酒を盃に満たし、姫の口元を指につけた酒で濡らす。姫、小さくあくびをすると、息を吹き返す |
スンダリー | ああ、よく眠ったこと。眠るのは心地よく目覚めるため。おかげでとってもいい気分。ああ、お母様、いつに変わらぬ面白いお顔。それにお父様も相変わらず生臭いゲップを吐いて、お太りだこと |
妃 | これ、スンダリー、気分が良いのは良いけれど、口が過ぎますよ。それよりこちらのお方が目に入らないのかい。懐かしくはないのかい |
・ | ーーー玄奘を前に押し出す |
スンダリー | (急にまじめな様子で)ああ、シュウセンさま、永い間、お待たせしてご免なさい。でも、もう少しお待ちになって。今すぐにお化粧をいたしますから、わたし、このごろお肌が気になって、だって二十才を過ぎたらお肌の曲がり角って言うでしょ |
悟空 | なんという変な愛らしさだろう |
玄奘 | 悟空や、私はどうしたらいいんだい? |
悟空 | そこは適当に相手になって相づちを打ってくださいよ・・・・そのうち、あのがさつな猪八戒と沙悟浄がやってきて、なにもかもいっときにぶちこわしますから。それまで時を稼ぐんです |
玄奘 | そんなことを言ったって困るじゃないか。もう〜、あっ、どうぞどうぞ、ご遠慮なく、あの〜、わたくしご婦人がお化粧をなさるところって、とっても興味があります。ですからここで拝見いたします |
悟空 | プッ、変なの〜 |
スンダリー | まあ〜、シュウセン様ったら(パフを使いながら)これじゃ少し粉っぽいかしら(ルージュをひきながら)大きな口を小さく見せるのって難しいのよね・・・・うふっ、でも、すぐにまたひきなおさなきゃならないわ。ね、シュウセン様 |
玄奘 | それはどういう意味でしょうか。わたくしいっこうに不調法なものですから、その〜 |
悟空 | 何を言ってるんだか |
妃 | お殿様、はや、夜も更けた様子、これでことは上手く運ぶでしょう。わたしたちは退出するといたしましょう |
マハラジャ | そうだなあ。あの様子では、まんざら石部金吉、朴念仁でもなさそうだし。姫のほうもあれを亡きシュウセンと思いこんでおるようじゃ。それなりに相性も合いそうだ。まあ、まずまずの首尾だわい |