劇団パンタカ第9回公演:平成2年4月8日(日):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『私本西遊記』、一幕四場
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マハラジャ | これで幾人目の僧であろうか。はや、その数を覚えぬくらいじゃ。のう、妃・・・ゲップ!・・・・ |
妃 | はい、あなた、秘密のうちに領内のタグに手を廻し、誰にも気付かれぬようかどわかして参りました |
マハラジャ | 僧は僧でもチーナの若く健やかな僧でないと姫の気に入らぬとは因果なことよ |
妃 | しばらくそのような僧に巡り会えませんでしたが、これで姫の眠りも醒め、不機嫌も治ることでありましょう |
マハラジャ | 最初の子はやはり気になるもの、まったくもう振り回されてしまっておる。やれやれ |
・ | ーーーマハラジャ、玄奘に近づき、気付け薬の小瓶を取り出し、鼻先にかがす。玄奘、うなり声と共に正気ずく |
玄奘 | う〜ん、ここはどこです。(縛られているのに気付いて)なぜ、こんな目に遭わせるのです。わたしは怪しい者ではありません。チーナの国から天竺へありがたいお経を取りに参る者・・・・ |
マハラジャ | 尊者よ、判っておる。そなたが仏教僧であることは。わしはこの土地の領主じゃ。判ってくれ。縛っておるのは逃げられては困るからで、今から事情を話す故、ひとつ我等の頼みを聞いてもらいたい。引き受けてくれればすぐにもほどいてやろうほどに |
玄奘 | そんな、ご無体な・・・ |
妃 | 心して聞いてくだされ。いえ、決して悪い話ではありませんよ |
・ | ーーーマハラジャ、セリに近づき、合図をするとセリが上がる。スンダリーが横たわっている |
マハラジャ | 尊者よ、見るがよい。不吉なまでの美しさを。冷たく心を閉ざしておるわが娘の姿を |
・ | ーーー妃、マハラジャと目配せをして |
妃 | 尊者よ、今から3年前、シュウセンというチーナから来た若い僧を供養に招いたとき、17歳のスンダリーは一目で恋してしまったのです。せがまれるままにシュウセン様を引き留めました。スンダリーのことをまだ子供だと思ったシュウセン様はまるでお守り役のようなつもりで遠い国々の珍しい話を聞かせてくださったのです。手を取ってうっとりと顔を見つめ、耳を傾けるスンダリーのただならぬ様子に気付いたとき、二人は一対の人形のように引き離すことの出来ない仲になっていたのです |
・ | ーーーマハラジャ、妃の作り話に関心して |
マハラジャ | さすがは妃、うまいものだ。いやなに、そうそう。しかし、そこでじゃ。わしは二人を引き離した。父親として当然であろう。娘にそんなはしたない真似はさせられん。で、シュウセンは殺した |
玄奘 | 殺したのですか? |
マハラジャ | ああ、殺した。だがのう、この仕打ちにスンダリーは直ちに仕返しをしたのだ。あれ、あの通り、眠ったままじゃ。尊者よ、どうか助けてくだされ |
玄奘 | むごいことをなさいましたなあ |
マハラジャ | 尊者よ。愚かな親と思うであろうが、これも娘可愛さの一念から出たこと。どうか哀れと思うて救うて下され |
玄奘 | わたくしになにをせよと |
妃 | 難しいことではないのです。姫の婿と成っていただければよいのです |
玄奘 | なんですって |
マハラジャ | 御坊には還俗していただき、この領地を治めていただきたい |
妃 | 眉目麗しい尊者よ。その上、望みをなんなりと申されるがよい。祝言の暁には、乾いた土が雨に潤うように、スンダリーの凍りついた心もそなたとの新床での睦言に溶けるでありましょう。 |
玄奘 | なにを言われる。たとえ八つ裂きにされても、そのようなこと・・・・ |
・ | ーーーマハラジャ、形相が急に変わり |
マハラジャ | なにっ、お前の命はわが掌中にあるのだぞ。生かすも殺すもお前の返答次第だということが判らぬのか |
妃 | まあ、まあ、殿様、おだやかに、おだやかに、お話あそばせ。これ、御坊、殿は気性の激しいお方。悲しみが深ければ、また怒りも強いもの。あたら尊い命をいっときの勘気に触れて落とすは愚かなこと。ここはひとつ、よくよくわれらが頼みを思案してくだされ・・・・ |