劇団パンタカ第9回公演:平成2年4月8日(日):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『私本西遊記』、一幕四場
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手下C 実はそれについちゃあ、あっしが城の出入りの酒屋から上手く聞き出してきましたぜ
手下D ほう、やるじゃないか、なあ、おい
頭領 そいつは耳よりだ。聞かしてもらおうじゃねえか
手下C へえ、あっしが聞き出したところでは、マハラジャには三人のお姫様がいる。ところがそのお姫様たちというのが、今はやりのグルメというやつで、料理にこっているんだそうです。おかかえのシェフに次々と珍しいもの美味しいものを食べたいと無理難題を言うんだそうで。この前も、たまたま手に入ったチーナの坊主のとれとれの脳みそを食べたが「あれは非常にデリーシャスでした。あれをもう一度食べたい」というたっての注文でして、そこで今度のチーナの坊主も生け捕りが条件というわけです
手下E げえー
手下D すげえことやるなあ
頭領 なあ〜に、猿の脳みそも上手いというから、なるほど智恵のつまった坊主の脳みそは極上の美味かも知れねえなあ。ブルブル、まあしかし、俺ならごめんこおむるねえ
手下C 酒屋が言ってましたが、実に気味の悪いお城だそうで、商いでなきゃ、近づきたくもないと言ってましたよ
頭領 そりゃそうだろう。そんな悪食に比べれば、俺たちタグの仕事なんて、上品なもんだぜ、なあ、おい
手下E・F 「いや、まったくでさあ」「そうとも、そうとも」「わっはっはっはっ」
ーーー手下の一人、玄奘一行が来たことを知らせる
副頭領 頭領、それより先にカモのご到来ですぜ
頭領 ちえっ、おめえに言われなくても、先刻、ご承知だい。(小声で)どうもカンにさわる野郎だぜ。いいか俺たちはペシャワルからデリーまで商いに出かける商人なんだぞ。今日の獲物は金じゃねえ。生きた坊主一人だ。いいなあ、たかをくくって下手を売るなよ。合い言葉はいつもの通り『さあ〜、タバコを一服』だ。野郎ども、抜かるなよ
一同 お〜
ーーー急に穏やかな雰囲気に化け、頼りなげに固まっている。焚き火を囲んで、食事の用意をして上手そうに食べ始める
猪八戒 あ〜、腹が減ったなあ。もう駄目だ。もう一歩も歩けません
玄奘 気の弱いことを言うものではありません。お釈迦様の6年間の激しいご修行を思えば一晩や二晩の絶食がなんです・・
そういう玄奘の声も、かすれ、馬もふらふら気味である
悟浄 水・・・水・・・ああ、お皿が乾いてひりひりする。ああ、眼が廻る
ーーー八戒、突然、美味そうな匂いを嗅ぎ付けて
八戒 くんくん、ぶ〜ぶ〜、や、や、や、やっ・・・
ーーー思わず鼻を地面にすりつけるようにして商人たちのところへ近づく。人影に気づいてさすがに飛びすさり、まぐわを構える
商人、実はタグの頭領 これはこれは、旅のお人。大分、お疲れのご様子。どうぞ、火のそばにお寄り下さい。いかがですか、私どもは今夜はここで野宿をするのですが、実は商人ばかりでここらの土地に不案内ときているものですから、はなはだ心細く思っているのです。見れば立派な得物をお持ちの強そうなお方がお二人、尊いお坊さまをお守りなさっての旅とお見受けいたしましたが
ーーー八戒、ごちそうをチラチラと横目で身ながら
八戒 いかにも、我々は大唐国の三蔵法師玄奘様のお供をいたして、これより天竺に尊いお経を求めに赴くところでござる。かくいう私は猪八戒と申すにわか道心でござる
頭領 それはそれは、はるばる大唐の国より砂漠を越え、山を越えて参られましたのか。さぞかし道中数々の危ない眼にもあわれたことでございましょう。わたくしたちもペシャワルを出ましてから、いつ盗賊に襲われはしないかと、鳥の影にもおびえながら、デリーを目指しております。で、そちら様は
悟浄 問われて名乗るもおこがましいが、シルクロード、トルファンは流沙河の住人、沙悟浄たあ、俺のことだ
ーーー見栄を切る。タグの手下たち、後ろでプッと吹き出す。副頭領、ジロリと手下たちを眼で制す
頭領 さぞかしお二方ともお強いんでございましょうねえ。やはり、眼の配り、足の運びからして違いますものねえ
猪八戒・沙悟浄照れて いやいや、それほどでも・・・・・・
頭領 ここでお出会いしたのも、仏様のお引き合わせ。どうぞ私どものお供養をお受け下さいませ。さあ、さあ、どうぞ
玄奘 それはまことにかたじけない。われらも道に行き暮れて、途方に暮れておりました。心のこもったお供養、ありがたく頂きまする
ーーー供養の食事を三人、食べ始める。いつの間にか、タグたち三人をそれぞれ二人ではさむようにしている

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