劇団パンタカ第1回公演:昭和57年4月8日(木):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『パンタカものがたり』ーーー正しい精進努力ーーー
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(2)
第一幕
第2場 | ・ |
釈尊 | パンタカよ、なにを嘆いているのか」 |
パンタカ | 「あっ、お釈迦さま」 |
・ | ーーーパンタカ、驚いて、ひざまずき、合掌礼拝する。 |
釈尊 | 「いったいどうしたのだ。話してごらん」 |
パンタカ | 「はい・・・・実はお使いに出ましたが、何を買うのか、忘れてしまったのです」 |
釈尊 | 「そうか、パンタカよ。よしよし、それでは、その入れ物の匂いを嗅いでみなさい」 |
パンタカ | 「くんくんくん、あっ、油の匂いがします・・・・・そうか・・あっ、そうだそうだ、油を買うのでした」 |
・ | ーーー釈尊、よしよしとうなずかれる。パンタカ、しみじみと |
パンタカ | 「お釈迦さま!どうしてわたしはこんなふうに馬鹿なのでございましょう。つくづく情けなくなりました・・・・・」 |
釈尊 | 「パンタカよ、そうではない。自分のおろかさを知るものは決して馬鹿ではない。愚かさも知らず、知恵があると思いこんでいる人の方が、よほどかわいそうなんだよ」 |
・ | ーーーパンタカ、頼りなくうなずく |
釈尊 | 「気を落とさず、油を買ったら、私のところへ来なさい」 |
・ | ーーー釈尊、去っていく。パンタカ、元気良く嬉しげに、背後から拝みながら |
パンタカ | 「はい、では急いで行って参ります」 |
・ | ーーーパンタカ、道を急ぎながらにこにこと |
パンタカ | 「お釈迦さまにお会いすると、いつも嬉しくなってくる。不思議だなあ」 |
・ | ーーーパンタカ退場 |
暗転 | ・ |
第3場 | ーーー明るくなると、木の下の宝座に釈尊。数人の子供たちが花を釈尊に供えて合掌礼拝する |
(NA) | お釈迦さまは静かに木の下で坐っておられます。そこへお使いから帰ったパンタカがやってきました。 |
パンタカ | 「お釈迦さま、行って参りました」 |
釈尊 | 「おお、そうかそうか、ご苦労様。お前を呼んだのはほかでもない。パンタカ、今日からお前は私が言いつける一つの事だけをしなさい。ここに箒がある。パンタカよ、この箒ですみずみまで、きれいに掃き清めなさい。今日からは掃除をするのが、お前の役目だ」 |
・ | ーーーパンタカに箒を手渡す |
釈尊 | 「そうして、掃き清めるたびに『塵を払い、垢を除かん』と称えなさい。覚えるまで根気よく称えてごらん」 |
・ | ーーー釈尊、立ち去る。パンタカ、箒をうやうやしく捧げて釈尊の後ろ姿を拝む。 |
パンタカ | 「ありがとうございます。お釈迦さま、ありがとうございます」 「ち・・・ちり・・・・を払い・・・あ・・・・あか・・・あかを・・・のぞかん」 |
春夏秋冬の感じの照明(黒子の助演) | ーーーパンタカ、夢中で掃いている。春、蝶がひらひら飛ぶ。夏、汗を拭く。秋、落ち葉焚き。冬、ぶるぶる震えて息を吐きかけ、手をさすり。寝ているときも寝言で称えている。(夏は水着でサーフボードを持った若者たちが通ったり、冬はスキーの板をかついで華やかなスキー・ウエアーで通るというのも、季節感を出す面白い演出かも知れない) |
(NA) | パンタカはそれからというもの、雨の日も風の日も、片時も箒を手から離すことなく。掃除をしました。そうしてお釈迦さまから教わった言葉を称え続けておりました |
・ | ーーーパンタカ、あいかわらず、ぶつぶつ称えながら掃除をしている |
パンタカ | 「え〜と、あかをのぞかん。ちりをはらい・・・・・あかをのぞかん。ふんふん・・・・ふんふん・・」 |
・ | ーーー先輩僧C、D、物陰から見ている |
先輩僧C | 「愚か者が、やっと覚えたと見える」 |
先輩僧D | 「しかし、根気の良いのには驚いたものだ」 |
先輩僧C | 「そこが愚か者じゃよ、馬鹿でもなければ、ああまでやれるものか」 |
先輩僧D | 「あれだけの言葉を何年もかかって、やっと覚えたんだからなあ」 |
・ | ーーーパンタカ、ちびてしまった箒をしみじみと眺めながら |
パンタカ | 「箒がこんなにぼろぼろになってしまった。いつまでも同じではないのだなあ。形あるものは移り変わってゆく。箒も人も同じかもしれないなあ・・・・」 |
先輩僧C | 「パンタカめ、箒を持って考え込んでしまったぞ」 |
先輩僧D | 「仕事がいやになったのかな」 |
・ | ーーーパンタカ、急に顔色が明るくなり |
パンタカ | 「そうか・・・・その迷いが塵や垢なんだ。そうだ!そうなんだ!わかったぞ!お釈迦さまあ、お釈迦さま〜!」 |
・ | ーーーパンタカ、駈け出していく。暗転幕の裏を走りながら、「お釈迦さま〜〜」 |
C | 「おい、おい、パンタカの様子がおかしいぞ。気が変になったのかなあ」 |
D | 「ほっておけ、ほっておけ。どうせ、馬鹿の気が狂っただけの事だよ」 |
暗転 | ・ |