劇団パンタカ第1回公演:昭和57年4月8日(木):神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『パンタカものがたり』ーーー正しい精進努力ーーー
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(1)

第一幕

 緞帳前 ーーー子供達登場しておつとめ
「ナモータッサー、バガバトー、アラハトー、サンマー、サンブッダッサー」三回。退場
第一場 ーーーナレーター、下手から吟遊詩人の姿で登場
(NA) ここはインドです。お釈迦様とお弟子たちが修行をしておられるところです。お釈迦様にはたくさんのすぐれたお弟子たちがおられましたが、なかにチューラパンタカという一人のお弟子がおりました。彼ははじめ自分の名前すら覚えることのできない、物覚えの悪い人でした。今日も今日とて、お経の稽古をしているのですが、やっぱりどうもよく覚えられないようです。
僧A 「よいか!もう一度だけ言って聞かせよう。『もろもろの悪をなさず。もろもろの善を行いなさい』こうだ。どれ、わかったかな。ん!覚えたかな」
ーーーパンタカ、眼を白黒させて、懸命にぶつぶつ言う
僧A 「では言ってみなさい」
パンタカ 「では言ってみなさい」
僧A 「ちがう!そうじゃないだろう。さっき私が教えた言葉だ。もろもろの・・・・・・・」
パンタカ 「はい・・・も・・・ろ・・・・も・・ろ・・・・・」
僧A 「なんじゃ!あれほど言って聞かせたに、まだ、覚えられんのか?」
ーーーパンタカ、情けない顔でしょでる
僧A 「よいか、もろもろの悪をなさずだ。言ってみなさい」
パンタカ 「も・・・もろも・・・ももろろ・・・・・」
僧A 「あきれかえった人だ!おろかものめ!もう知らん!どうしようもない!」
ーーー僧は腹を立てて、出ていってしまう
パンタカ 「もも・・・もろ・・・もろ・・・ううん、違う、何だったかなあ?」
ーーーパンタカ、頭を抱え込む。ややあって、先輩僧Bが入ってくる
僧B [パンタカさん、ちょっとお使いに行ってくれないか?」
パンタカ、ぼんやり自分の掌を見ている
僧B 「これ、パンタカ、聞こえないのか」
ーーーパンタカ、きょとんとして
パンタカ 「どなたか、お呼びですよ。いませんか!」
僧B 「なんと!自分の名前まで忘れるとは・・・・・・いやはや、恐れ入った馬鹿だ。こりゃあ駄目だ。わしでは手に負えん」
ーーー僧立ち去る。パンタカ、しょんぼりと部屋のすみへ行って坐って壁を見ている
ーーーパンタカの兄がやってくる
パンタカ 「ああ、兄さん」
「お前にはこの兄も呆れかえってしまう。みんな怒っているぞ。さあ早く油を買ってこい。この札を首にかけて。お前の名札だ。早く早く行った」
ーーーパンタカ、油の瓶を手にもって歩きながら、
パンタカ ええっと、油、油と、忘れては大変だ。え〜、油、油をと」ーーー下手に消える
第二場 ーーー村の子供たちがかごめかごめをして遊んでいる
村の子A 「あれ、あそこにパンタカがくるよ」
村の子B 「ほんとだ。あの人は自分の名前も覚えられないんだねえ」
村の子A 「あんな人が、お釈迦様のお弟子なんだって」
ーーーパンタカ、近づいてくる
村の子A 「パンタカさん、首に何を掛けているの?」
パンタカ 「これは私の名前ですよ」
村の子A 「何て書いてあるの?」
パンタカ 「え・・・と・・・・なんて書いてあるのかなあ」
ーーー子供たち、くすくす笑う
村の子A 「自分の名前だって、そう言ったじゃないか」
パンタカ 「そうでした、そうでした!」
村の子A 「パンタカと書いてあるんでしょ」
パンタカ 「そう、そう、そうでした、そうでした」
ーーーみんな大声で笑う。パンタカもつられて頼りなく笑う
村の子B 「瓶をもって何を買いに行くの?」
パンタカ 「あっ、しまった。笑ったとたんに忘れてしまった。困ったなあ。何を買いに行くんだったかなあ」
ーーーパンタカ、考え込む
パンタカ 「ねえ、わたしは何を買いに行くんでしたかねえ」
ーーー子供たち顔を見合わせて
村の子A 「お水じゃな〜い」
村の子B 「違うよ、お薬だよねえ」
村の子A 「お水だよ」
村の子B 「お薬だ〜い」
ーーー子供たち、言い合いしながら出ていってしまう
パンタカ 「お水だったかなあ、お薬だったかなあ。さあ、困ったなあ」
ーーーうろうろしながら
パンタカ 「どっちだったかなあ・・・・・このままお寺へ帰れば、また叱られるし、どうしてわたしはこうも馬鹿なのか。情けないなあ。ああ、情けない」
(NA) ーーーそこへお釈迦さまがおいでになりました

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