劇団パンタカ第6回公演:昭和62年4月8日():神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『貧者の一灯ものがたり』ー感謝のほどこしー
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第4場
ーーー花道にビシャカーと油売り
ビシャカー 「おじさん、これで買えるだけの油をちょうだいな」
油売り 「なんだい、乞食じゃないか。売ってくれったって、それっぽっちかい。それじゃ計るほどもないよ」
ビシャカー 「すみません。お金がこれだけしかないので、わずかでもいいんです。ごめんどうでも、これで買えるだけの油を売ってくださいな」
油売り 「やれやれ、しょうがないなあ。お前さんがそういうんならかまわないけど、いったいこれっぽっちの油を何にするのかね」
ビシャカー 「はい、本当にわずかですみません」「(油売り)本当にわずかだ。ちえっ」「今夜、竹林精舎へ、弟と二人で、おしゃかさまのお話を聞きに行くんです。乞食の私たちには、お供えするものがありませんから、せめて今日のかせぎで一椀の油を買って、尊い仏陀に灯明をお供えしようと思いましてね」
ーーー油売り、急に態度が変わり、
油売り 「さあ、お椀をかしな。俺の気持ちだ。持って行きな」
ーーー油売り、お椀をひったくるように取ると油を倍にしてやる。
ビシャカー 「まあ、ありがとうございます。あなたのご親切は決して忘れません」
油売り 「いいってことよ。おれの気持ちも、いっしょに、お供えさせておくれ」
ビシャカー 「はい、あなたさまに仏のご加護がありますように」
油売り へへっ、ありがとうよ」
第五場
テープ「献灯の歌」 舞台明るくなると、下手より行列の人々、火の点った大きな灯籠を御輿のようにして登場。あたりを練り歩く。先頭をバッディヤ長者とその妻が行く。得意気にすましている。見物人たちの間から歓声や溜息が聞こえる。上手からチッタ長者とその妻、こちらも負けず劣らずの立派な灯籠が練り歩く。ひとしきり歩いて中央で鉢合わせ、互いに慇懃に挨拶しながら、ぷいっとそっぽを向く。ひき割り幕が開くと、釈尊中央に講座の場面となる。二つの大きな灯籠が所定の位置に据えられる。ビシャカーとシンガーラカ、巨大足の男、癩の男女、登場。ビシャカーの手に灯明が持たれている。人々の後ろに遠慮がちに坐る。人々に勧められて、おそるおそる灯明を前の台の上に置き、合掌礼拝して下がる。
ーーービンビサーラ王、合掌して問う。
ビンビサーラ王 「世尊よ、信者とは如何なる範囲の者でありましょうか」
釈尊 「大王よ。仏陀と教法と僧団との三宝に帰依する者が信者である。生まれや階級を問うことはない」
ビンビサーラ王 「世尊よ、では日常の生活をどのような心得をもって過ごしたらよろしいでしょうか」
釈尊 「ビンビサーラよ、生きとし生けるものの命を絶つことなく、与えられざるものを盗むことなく、正しくない性生活を避け、嘘言を吐かず、酒や煙草を飲まないのが信者の戒律であり、仏陀を信ずるのが、その信仰である。貪りと物惜しみの気持ちを捨てて、社会に奉仕することが信者のつとめであり、ものの生滅変化を身に沁みて知ることがその智慧である。
ビンビサーラ王 「世尊よ、私は時々、貪り、瞋り、真実に対する疑いに捕らえられますが、それはまだ私の心に捨てるべきものが残っているからだと思われますが・・・・・・・・」ーーー突然、つむじ風が吹いて、明かりを吹き消し、大きな二つの灯籠は壊れて、空中に飛ばされてしまう。
「献灯の歌」 ーーー人々が騒ぐのを仏弟子たちが制止する。騒ぎがやっと静まる。
ビシャカーの灯明だけが燃え続けている。
アーナンダ 「世尊よ、不思議なことに、あそこにたった一つ、小さな灯明が燃え続けておりますが、いかなるわけでありましょうか」
釈尊 「アーナンダよ、その灯明は海の水を集めて来ても消すことは出来ないであろう。深い信仰の心から供養されたものであるから」
ーーーシンガーラカが眼を押さえる。「う〜、う〜」ビシャカー「どうしたの、痛いの」シンガーラカ「なんだか痒い、変な感じだ」・・・・・何かが見える。ぼんやりと」「えっ」「明かりだ、明かりが見える」立ち上がって灯明の方へ歩き出す。「見える、見える、姉さん、明かりが見える。あ〜あ、きれいだ」「シンガーラカ!」「姉さん!」手を取り合う。
「ああ、世尊よ、ありがとうございます」ーーー人々の間から、「おおっ、奇跡だ!奇跡が起こった!」という声が沸き起こる。
釈尊 「そうではない。おまえたちの深い純粋な信仰によって、起こることに、何の不思議があろうか。天地に対する感謝を忘れず、その信仰を大切に育てるがよい」
ビシャカー
シンガーラカ
「はい!」
ーーー全員で、ブッダム・サラナム・ガッチャーミー
          ダンマム・サラナム・ガッチャーミー
          サンガム・サラナム・ガッチャーミー
緞帳降りる

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