劇団パンタカ第6回公演:昭和62年4月8日():神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『貧者の一灯ものがたり』ー感謝のほどこしー
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ーーー長者の妻。登場
「何をそのように大きな声を出しておられるのです」
長者 「おお、奥か。なに、たいしたことではない・・・・・いやいや、たいしたことかも知れぬ。呼びも招きもせぬのに、坊主どもが降って湧いたように、ゾロゾロと、いったいどうなっているのだ。いまいましい」
ーーー妻、召使いに向かって、
「いったい、なんのことです」
召使い 「なんのことやら、わたしにはさっぱり」
「それはそうと、あなた、わたし今日ほど悔しい思いをしたことはありませんわ」
長者 「どうしたのだ。眼を吊り上げちゃって、またどこかの奥さんが、お前のより大きな宝石の指輪をしていたのであろう。どうしてお前たち女は赤や青のガラス玉にそれほど心を奪われるのだ。よいではないか。どうせ似合っていなかったのであろう」
「そうなのよ。バッディヤ長者の奥さんなのよ。あのおデブさんたら、これみよがしに、何度も口に手を当てて、笑うのよ。わざとらしいったらありゃしない。だからわたしだって、見せつけてやったわ。あ〜ら、奥様ったら、おほほほほ・・・・・」
ーーー長者、小声で「どっちもどっちだわい」
「あ・・・・・そうじゃないの。指輪なんかどうでもいいの。こうなったら、負けてられないわ」
長者 「何のことかわからんが、これが何か言い出すと、ドバッとお金が出ていく。何も聞かないことにしよう」
ーーー妻、あわてて回り込んで、
「ねえねえ、あなた、聞いてちょうだい。あのバッディヤ長者が今度のおしゃかさまの講座の日に、特大の灯籠を寄進するんですって、灯明をお供えする人は多いけれど、今までに見たことがないほど、大きくて素晴らしい細工を施したものだそうよ」
長者 「なに、バッディヤが。う〜ん、あいつめ、またも派手なことをやりおるのか」
「そうなのよ、お釈迦様の講座には、それは大勢の人たちが聴きに行くわ。バッディヤ長者とあのおデブさんが得意満面で灯籠の行列を作っていくのよ。考えただけでも悔しいじゃない」
長者 「人からしぶちんと言われ、自分でもケチと認めておるこのわしも、商売敵のバッディヤにだけは負けたくはない」
「それにあなた、宣伝にもなるわよ。だから、あなた、あちらに負けないようなキンキラキンの派手な灯籠を寄進するのよ。油を奮発して、真昼のように照らし出せば、あちらの灯籠なんかかすんでしまうわ。そうだ、ありったけの首飾りや、宝石を身に付けて行くの。キラキラ輝く私を人々は見るわ。う・・・・考えただけでもゾクゾクしてくる」ーーー妻、うっとりと空想に浸っている。
長者 「やれやれ・・・・・しかし、こいつは一つ、本気で勝負といくか。思いっきり派手な特大の灯籠!うん、こいつはいける」
「そうよ、あなた、ケチッタ長者なんて、もう誰にも言わせないわ」
ーーー長者、ギョッとして妻を見る。妻、あわてて口を手に当てる。
暗転

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