劇団パンタカ第6回公演:昭和62年4月8日():神戸文化大ホール
【釈尊降誕会祝典劇】
『貧者の一灯ものがたり』ー感謝のほどこしー
(1) (2) (3) (4) (5) (6)      TOPへ        HOME

「キャスト」
釈尊・・・中野 多聞    大カッサパ・・・野中 英照   ピンドラ・・・藤本 慈晃  アヌルッダ・・・伊藤 涼導
目連・・・矢坂 誠徳    アーナンダ・・・吉水  幸也   チッタ長者・・・浅野 正運  チッタ長者の妻・・・新免  志保
ビシャカー・・・西村 英子  シンガーラカ・・・浅野 孝次  ビンビサーラ・・・明石 法成  乞食男・・・川下 秀一
乞食女・・・中島由子  巨大足の男・・・黒田 秀樹  油売り・・・浜田 諭稔  庭師・・・林   市郎
門番・・・立花 正則  召使A・・・大谷能子  バッディヤ長者・・・樋口肇太郎

脚本・演出:冨士 玄峰  ディレクター:甲斐 宗寿  装置:中野 多聞・藤本 慈晃  衣装・振付:西村 英子

第1幕第1場

ーーー緞帳上がると、暗転幕前に目連、大カッサパ、アヌルッダ、ピンドラの4人が集まっている。
大カッサパ 「善き友びとたち、いかがであろう。最近の王舎城内での人々の信仰のあり方は?」
目連 「はい、カッサパさま。われらが師、仏陀世尊の教えは今や城内の人々のすべてに行き渡っておるように思われますが」
アヌルッダ 「目連どの、それは少し、見方が甘いのではないか」
ピンドラ 「うん、わたしもそう思うなあ」
大カッサパ 「それはまたどうして」
アヌルッダ 「われらが師、仏陀世尊は常日頃、布施ということの大切さをくりかえし説いておられるが、われらが托鉢に出向いても、一向に供養をしてくれない人がいます」
ピンドラ 「しかも貧しいから出来ないというのではないのです。むしろその反対です」
目連 「はは〜ん、やっとわかりました。お二人が誰のことを言っておられるのか」
大カッサパ 「わたしには一向に誰のことやら」
目連 「チッタ長者のことですね」
アヌルッダ 「さようチッタ長者です」
ピンドラ 「町の人たちはケチッタ長者だと・・・」
ーーー目連、アヌルッダ、ピンドラ、声を挙げて笑う。大カッサパはにこりともせずに。
カッサパ 「笑い事ではないでしょう。施しを受けるからには法を施さねばなりません。布施の喜びを知らない人がいるということは、われらの教化の力が及ばないこと、つまり頂くばかりで法を施していないことになります」
ピンドラ 「それはそうですが、一筋縄ではいかない人です」
アヌルッダ 「門番に犬をけしかけさせたり、ときには水をぶっかけられる仲間もいますよ」
カッサパ 「それはまだ充分に托鉢の修行を積んでいないから、そうなるのです」
目連 「カッサパさんほどになればね」
カッサパ 「心を乱さぬことです。施す人や、施された物にとらわれないこと。心乱れれば執着が生まれる。それでは真の布施とは言えません」
アヌルッダ 「どうでしょう。一つ我らで力を合わせて、ケチッタ、あ、いや、チッタ長者を教化することにしては」
ピンドラ 「それはいい、相当、頑固な人ですから、多少は禁じられている神通力を使うこともやむをえんでしょうなあ」
目連 「ははは、実は使いたくて、うずうずしているんでしょう」
ピンドラ 「そういうあなただって、この頃、むずむずすると」
ーーー二人、たがいにつつきあう。
カッサパ 「オホン!これこれ・・・。まあ、仕方がないでしょう。しかし、この前のようにやりすぎたりしては困ります。わたしまでいっしょに世尊に叱られるのは、もうこりごりです」
ーーー目連、釈尊の声色をまねて
目連 「あなたという人がついておりながら・・・・」
ーーーピンドラ、くすくす笑う。カッサパ、渋い顔。
アヌルッダ 「大丈夫ですよ。ショック療法も、たまには効果があるものです。さあ、さっそく行ってみましょう」
カッサパ 「やれやれ、皆さん、えらく張り切ってますねえ。心配ですなあ」
ピンドラ・目連 「大丈夫、大丈夫、さあ、さあ」
ーーーカッサパを押すようにして、二人退場。アヌルッダもニヤニヤして後から退場。
暗転

                               次へ         TOPへ        HOME